グリーンゲイブルズの赤毛のアン

生立ちを語る

生立ちを語る

アンとマリラは、スペンサー家へ向かう途中、緑豊かな道を歩いていた。空は澄み渡り、風が穏やかに吹き抜ける中、アンはいつものように話し続けていた。話題は様々で、可愛らしい花や鳥のこと、村の小道の景色、そして次にやってくる季節のことまで、思いつくままに話し続けるアン。しかし、ふと気づけば、マリラは黙って歩いている。

「マリラ、どうしたの？ 何か悩み事でもあるの？」アンは心配そうに尋ねた。

「いや、別に。ちょっと考えごとをしていただけよ。」マリラは少し顔をしかめて答えた。

アンはその答えに納得した様子で、再び元気よく話し始めたが、その表情に少しの沈黙が流れた。それが、マリラの心を鋭く刺激した。

「アン、あなたのことをもっと知りたくなったのよ。」マリラは思い切って声をかけた。「特に、あなたの過去について。」

アンはその言葉を聞くと、突然歩みを止めた。長い間、抱え込んでいたものが一瞬にして胸に押し寄せたかのように、彼女は視線を下に落とし、無言で足元の草を踏みしめた。

「過去…」アンは静かに呟いた。その声には、どこか寂しさが漂っていた。

「アン？」マリラは優しく声をかけると、アンはゆっくりと顔を上げ、目をマリラに向けた。その瞳の奥には、深い悲しみが宿っていた。

「私、ずっと話すのが怖かったんです。」アンは言った。「でも、今なら少しだけ…。」

マリラは何も言わず、ただアンを見守った。アンは、少し躊躇いながらも、重い口を開き始めた。

「私は、孤児院で育ちました。小さな頃からずっと。」アンの声は、どこか冷たく響いた。「両親を知ることなく、私は育てられたんです。」

アンは一瞬言葉を詰まらせたが、再び話し始めた。

「孤児院にはたくさんの子供がいました。最初は覚えていないけど、少しずつ記憶が蘇ってきて、私はいつも一人だった。どこにも頼れる人はいなかった。」アンの声がわずかに震えた。「他の子供たちのように、誰かが私を愛してくれるだろうなんて、思ったこともなかった。」

「それは…辛かったわね。」マリラはその言葉を飲み込み、息を呑んだ。

「でも、辛いのはそれだけじゃなかった。」アンは目を伏せ、肩を震わせながら続けた。「私は何度も養子に出されようとしたけれど、どこへ行っても、すぐに返されてしまった。私が何か問題を起こしたわけじゃない。ただ、私が存在するだけで、誰も私を迎え入れてくれなかった。」

その言葉に、マリラの胸は痛んだ。何も知らずにただ明るく振る舞うアンの姿を見て、どれほどの痛みと孤独を抱えているのかを想像することはできなかった。

「私は、ずっと自分が無価値だと思っていました。誰も私を愛してくれないなら、きっと私は愛されるべき存在じゃないんだって。そう思っていたんです。」アンは少し黙った後、再び顔を上げた。その顔は少し赤らんでいたが、そこには決意の光も宿っていた。「でも、ある時、私は諦めないことを決めたんです。どんなに孤独でも、どんなに傷ついても、私は生き抜くんだって。」

マリラはその言葉に胸が熱くなった。アンがどれほどの苦しみを乗り越えてきたのか、それを少しでも感じ取ることができた気がした。

「そして、ついに、今の私がある。」アンは微笑んだ。「マシュウさんとマリラさんが私を受け入れてくれたことで、私は初めて家族を持つことができた。これまでのことをすべて忘れたわけではないけれど、今は少しだけ、自分を大切にできるようになった気がするんです。」

マリラはその言葉を聞き、心の中で深く息を吐いた。アンの過去は決して明るいものではなかったが、彼女はそれを乗り越え、今、自分を支えてくれる家族の中で新たな人生を歩んでいる。

「アン、あなたはとても強いわ。」マリラは優しく言った。「そして、これからも私はあなたを支えていく。あなたの過去は決して忘れないけれど、今のあなたが大切なんだと、私は思っているわ。」

アンは微笑み、マリラに感謝の気持ちを込めて頷いた。空は徐々に夕暮れに染まり、二人は静かな道を歩き続けた。どんなに暗い過去があっても、今、彼女の周りには愛と温もりが広がっていることを、アンはしっかりと感じていた。