上 下
192 / 202

分かれ道の選択

しおりを挟む
分かれ道の選択

アーヘンの城の一室、重厚な扉が静かに閉じられると、リシャール王は母ルシア元王妃の前に立った。王としての決意を固めつつも、彼は母の助言を必要としていた。ルシアは歳を重ねたが、その鋭い眼差しと知恵は健在だった。彼女は転生者であり、未来を予知する能力を持っていたが、その重荷は息子には知らせず、母としての役割を全うしていた。

「リシャール、あなたが異国の血を取り入れることで、王国の未来を切り開こうとしているのは理解しているわ。だが、その前に一つ考えてほしいことがあるの。」ルシアは静かに語りかけた。

リシャールは母の言葉に耳を傾ける。彼は王国の繁栄を願っていたが、母の助言には常に耳を傾けてきた。「何を考慮すべきなのでしょうか、母上?」

ルシアは息を深く吸い込み、重々しい声で答えた。「賢王ソロモンのことを思い出してほしい。彼は神から智慧を与えられ、イスラエル王国を繁栄させた。しかし、彼の選んだ多くの異国の妻たちは、異なる宗教を持ち込み、結果として彼自身がその信仰に引きずられ、王国を分裂させた。あなたが今、異国の血を王家に取り入れることを考えているなら、その危険性も考慮に入れるべきです。」

リシャールは黙考した。ソロモン王の物語は彼にとってよく知られたものだったが、今まさに自分がその選択に立たされていることに気づいた。異国の血を取り入れることは、王国の繁栄をもたらすかもしれないが、その代償として失うものが何か、彼は慎重に考えなければならなかった。

「母上、あなたの言うことは理解しています。だが、私が選ばなければならない道は限られています。王国の未来を見据えたとき、私には他にどのような選択肢があるのでしょうか?」リシャールは迷いながら尋ねた。

ルシアは微笑みながら、彼の手を取り語りかけた。「リシャール、選択肢は常にあるものよ。異国との婚姻は確かに一つの手段かもしれないけれど、それが唯一の方法ではないわ。例えば、地方の有力な貴族たちと結びつきを強化し、国内での結婚を奨励することで、血統を広げつつ、政治的安定を図ることもできるはずよ。」

リシャールは母の提案に考え込んだ。彼が望む王国の繁栄は、単に異国の血を取り入れることだけで達成できるものではないと理解した。国内の有力者たちとの結びつきもまた、王国を強化し、将来的な分裂を防ぐ手段となるだろう。

「しかし母上、ソロモンが失ったものと同じ運命が待っているかもしれないのではないでしょうか?異国の妻を持つことが、王国の文化や価値観に影響を与え、その結果として王国が分裂する可能性を考えると……」

ルシアは息子の懸念に応えた。「そうね、その可能性は否定できないわ。でも、あなたがソロモンの過ちから学び、同じ過ちを犯さないようにすることが大切なのよ。異国の血を取り入れることは避けられないとしても、あなたの意志と知恵が試される時が来るわ。その時に、王国の利益を最優先に考えることができるかどうかが鍵になるの。」

リシャールは母の言葉を心に刻んだ。彼の選択は王国の未来を左右する。彼は、賢王ソロモンが失ったものを取り戻すためには、彼自身の判断と意志が必要であることを理解した。

「母上、あなたの助言を胸に、私は慎重に行動することを誓います。異国との婚姻も、国内の有力者たちとの結びつきも、共に王国の未来を見据えて行うこととします。王国が分裂することなく、繁栄を続ける道を模索していくつもりです。」リシャールは決意を新たにした。

ルシアは微笑みながら頷いた。彼女は息子が正しい選択をすることを信じていた。そして、彼の未来が明るいものであることを祈りながら、静かにその場を後にした。

時が経ち、リシャールの選択はフランク王国の運命を大きく左右することになる。彼の選んだ道が王国に繁栄をもたらすか、それともソロモン王のように過ちを犯すか、その答えはまだ誰にもわからなかった。しかし、彼が母から受けた教えは、彼の胸に深く刻まれ、王としての責任を果たすための指針となったのだった。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

アイアイ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

悪役令嬢日記

瀬織董李
ファンタジー
何番煎じかわからない悪役令嬢モノ。 夜会で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢がとった行動は……。 なろうからの転載。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...