上 下
134 / 202

聖句の光に導かれて

しおりを挟む
聖句の光に導かれて

フランク王国の宮殿では、教会と王家の対立が日に日に激化していた。教会はその権力を拡大し、民衆の信仰を巧みに利用して、政治にも影響を与えようとしていた。特に問題となっていたのは、教会が主導する免罪符の販売であった。民衆は、罪を赦されるという名目で高額な免罪符を買い求め、教会の懐を潤していた。しかし、それはイエス・キリストの教えとはかけ離れた行為だった。

ルシア王妃は、転生者であった。彼女は過去の記憶を持ち、現代の常識と信仰を心に秘めていた。彼女にとって、教会の横暴は到底容認できるものではなかった。イエスの名を利用して金銭を集め、政治に干渉するなど、神の愛を広めるべき教会の本来の役割を完全に逸脱していると感じていた。

ある日、教会の司祭たちが王宮に押し入り、ルシア王妃に異端の疑いをかけ、彼女を裁こうとする動きがあった。ルシアの考え方や行動が、教会の権威を脅かすとみなされたのである。しかし、ルシアは恐れることなく、毅然とした態度で彼らに立ち向かった。

「わたしの国はこの世のものではありません。もしこの世のものであったなら、わたしのしもべたちが、わたしをユダヤ人に渡さないように、戦ったことでしょう。しかし事実、わたしの国はこの世のものではない。」ルシアは、ヨハネによる福音書18章36節の聖句を引用した。

その瞬間、部屋の中に静寂が訪れた。教会の司祭たちはルシアの言葉に驚き、言葉を失った。この聖句は、イエス・キリストがローマの総督ピラトに捕らえられた際に発せられたもので、彼の王国が地上の権力とは無縁であることを示している。

「教会は、神の愛を広める役割を持っています。にもかかわらず、あなた方はその名の下に権力を振りかざし、民衆を苦しめている。免罪符の販売は、イエスの贖いを無効にするものであり、神への冒涜です。」ルシアの言葉には、確固たる信念が込められていた。

民衆はルシアの言葉に共感し、教会に対する反感を募らせていた。彼女の勇気ある姿勢は、彼らに希望を与えた。教会の権力に屈することなく、神の愛と正義を守ろうとする彼女の姿は、まるで聖書に登場する預言者のようだった。

その後、民衆の抗議運動が王国中で広がり、教会は次第にその力を失っていった。ルシア王妃とリシャール王子の支持を得た民衆は、教会の圧力に屈することなく、政教分離の理念を王国に根付かせた。

「神の国はこの世のものではない。私たちは、神の愛を信じ、その導きに従うべきです。」ルシアは宮廷での演説でこう述べた。その言葉は王国中に広まり、フランク王国は新たな時代を迎えた。

教会の力が弱まり、神の愛と正義が国を治めるべきだという理念が広まったことで、民衆の生活は次第に改善されていった。ルシア王妃の導きによって、フランク王国は真に神に愛される国となり、彼女の名は永遠に記憶されることとなった。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

アイアイ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

悪役令嬢日記

瀬織董李
ファンタジー
何番煎じかわからない悪役令嬢モノ。 夜会で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢がとった行動は……。 なろうからの転載。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

処理中です...