悪役令嬢は慎み深さを手に入れた

悪役令嬢は慎み深さを手に入れた

第17回ファンタジー小説大賞エントリー作品です。


ペンタブラックの王女 ルシア
1.
橋の下の捨て子と笑われて
川遊びの偶然が紡いだ運命
雪のように白い肌の彼女は
冷たい手に抱かれることなく
ミルクの匂いだけを知る赤子だった

2.
王宮の灯りは決して彼女を照らさず
暗闇に染まる部屋で
ぬくもりを知らず育った日々
愛され方を知らぬまま
人の心を映せぬ鏡のように
ルシアは成長していった

3.
優しい声を知らず
触れる手の温かさも知らない
モーゼのように導かれることもなく
彼女はただ泣き続けた
捨て猫のように、小さく、弱々しく

4.
嫉妬に燃える側近の陰口が
彼女の耳を刺す針となり
「何よ、捨て子のくせに」
その言葉は冷たい鏡の前で
心に突き刺さる鋭い針だった

5.
愛着障害と名付けられたその痛み
感情のない少女は
心の中に深い闇を抱えて
どんな光も吸い込むペンタブラック
それは彼女の心の色

6.
フランシス王子の優しさも
ジュリエット王妃の慈愛も
ルシアの心には届かない
誰かの愛を反射することもなく
彼女はただ冷たく、孤独に、立ち尽くしていた

7.
庭のバラが咲き誇る季節
彼女は一人立ち尽くしていた
孤独の中で、何も感じられず
ただそこにいるだけの存在

8.
「愛は見えないけれど、確かにあるものです」
庭師の老人の言葉が
ルシアの心にささやく小さな光となり
彼女は驚き、初めて心が動いた

9.
少しずつ、少しずつ
ルシアは心を開き始めた
彼女のペンタブラックの闇に
微かな光が差し込み
冷え切った心に温もりが戻る

10.
フランシス王子の忍耐と優しさが
彼女の心を包み込むように
少しずつルシアは学んでいった
愛の形、愛されること、愛することを

11.
今、彼女の心は輝きを取り戻し
周囲に反射する光となった
ペンタブラックの過去は消え去り
ルシアの未来には希望が満ちていた

12.
愛の力は、どんな闇も照らし出す
光を反射する心へと変わった
ルシアは、歩み始めた
新たな世界の中で
その手には温かな光が宿っていた
24h.ポイント 14pt
49
小説 31,008 位 / 193,951件 ファンタジー 4,353 位 / 44,508件

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

従姉が私の元婚約者と結婚するそうですが、その日に私も結婚します。既に招待状の返事も届いているのですが、どうなっているのでしょう?

珠宮さくら
恋愛
シーグリッド・オングストレームは人生の一大イベントを目前にして、その準備におわれて忙しくしていた。 そんな時に従姉から、結婚式の招待状が届いたのだが疲れきったシーグリッドは、それを一度に理解するのが難しかった。 そんな中で、元婚約者が従姉と結婚することになったことを知って、シーグリッドだけが従姉のことを心から心配していた。 一方の従姉は、年下のシーグリッドが先に結婚するのに焦っていたようで……。

【完結】王太子妃の初恋

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。 王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。 しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。 そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。 ★ざまぁはありません。 全話予約投稿済。 携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。 報告ありがとうございます。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

サンドリヨン 〜 シンデレラの悪役令嬢(意地悪姉役)に転生したので前職を生かしてマッサージを始めました 〜

浪速ゆう
ファンタジー
 普段はマッサージサロンで働く活字中毒女子の満里奈。ある日満里奈はいつものように図書館に通い、借りる本をさがしていた最中に地震に遭遇し、本棚の下敷きにされてしまう。  そして気がつけばそこはシンデレラの童話の世界だった。満里奈はどうやらシンデレラの二番目の悪姉(悪役令嬢)に転生していたーー。 ※恋愛はゆっくり始まります。 ※R15は念のため。

王太子妃の仕事って何ですか?

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚約を破棄するが、妾にしてやるから王太子妃としての仕事をしろと言われたのですが、王太子妃の仕事って?