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X、ブロックされても投稿は見られる仕様に変更

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X、ブロックされても投稿は見られる仕様に変更

「まただ…」と、楓はスマートフォンの画面を見つめ、溜息をついた。彼女のX(旧Twitter)アカウントは、最近また嫌がらせの被害に遭っていた。自分をブロックした人の投稿が見られる仕様に変わると知ったのは、たまたまフォロワーが共有したニュースを見た時だった。楓はその瞬間、背筋に冷たいものが走るのを感じた。

「ブロックしても、もう意味がないの?」彼女は独り言を呟く。これまで楓は、X上で不快なアカウントを次々とブロックしてきた。それは、精神的な安定を保つための唯一の方法だった。嫌なコメントや脅迫めいたメッセージを送ってくる相手から距離を取るために、ブロック機能は彼女にとって救いだった。

しかし、この新しい仕様変更は、それを覆すものだった。たとえブロックしたとしても、相手が彼女の公開投稿を見られるというのは、楓にとって安心感を大きく揺るがすニュースだった。

「見られている…」そんな考えが頭から離れない。いくら投稿を限定公開にしたとしても、いま彼女が自分を守るためにしている対策がいつか無力化するのではないかという恐れが募る。楓はXのアカウントを非公開に切り替えることも考えたが、今まで築き上げてきたフォロワーとの関係や、自分の声を広げるために使ってきたプラットフォームを手放すことは簡単ではなかった。

画面をスワイプしながら、楓はふと昔の自分を思い出す。SNSが今ほど普及していなかった頃、自分の考えや感情を発信する場所が限られていた時代。あの頃は、自分の周りにいる少数の友人や家族に話すことで、心の安定を保っていた。それが良かったのか悪かったのかは分からないが、少なくとも今のような心のざわめきはなかったはずだ。

「あの頃に戻れたらなぁ…」と、思わず口に出してしまう。

そんな折、彼女はふと、最近知り合ったフォロワーの存在を思い出した。彼は穏やかな人柄で、どんな投稿にも優しく励ましのコメントを送ってくれる。彼の存在が、今の楓の心を支えてくれていることに気付く。画面の向こうの相手は、名前も顔も知らない存在だが、彼の言葉には温かさがあった。

楓は、ふと思い立って彼にメッセージを送ることにした。「この仕様変更、どう思いますか?」と。

しばらくすると、彼から返信が届いた。「正直、不安に感じますね。でも、僕たちは自分の言葉を発信する権利があるし、それを守るためにできることはあると思います。たとえ仕様が変わったとしても、自分の声を大切にしてください。」

その言葉に、楓は少しだけ救われた気がした。彼の返信は、簡単でありながらも深く響いた。SNSの世界は、時に残酷で無防備な場所だが、そこには同じように感じている人々もいる。彼女は自分が孤独ではないことを感じ、もう一度立ち上がろうと決意する。

「そうだ、自分の言葉を守るために何ができるのか、もう一度考えてみよう」と楓はつぶやいた。そして、彼女はアカウントの設定を見直し、自分が何を発信したいのかを再確認することにした。フォロワーと共有する喜びや考えを大切にしながら、同時に自分を守るための新たな戦略を立てる決意をしたのだ。

その日、秋の風が窓を通り抜け、楓の頬を撫でた。外を見ると、遠くの空にうっすらと夕焼けが広がっていた。変化の中でも、守るべきものはある。そして、楓は再び自分の言葉を綴るために、キーボードに指を置いた。

仕様が変わっても、彼女は自身の声を、発信をやめることはしない。それが楓にとって、SNSとの新たな向き合い方となるだろう。






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