トレンド

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
365 / 570

トレンド

しおりを挟む
「トレンド」

2024年の東京、SNSが普及した現代社会。人々は流行に敏感で、特に若者たちは「トレンド」に従った生活を送っていた。中でも、「トレンドデート」と呼ばれる、新しいデートスタイルが話題となっていた。それは、SNSで話題のスポットを巡り、リアルタイムで投稿を共有するというものであった。

主人公の美咲は、22歳の大学生。彼女は友人たちと共にトレンドデートを楽しんでいたが、心の底では本当の恋愛を求めていた。彼女の周りには、SNSでの「いいね」を気にする恋愛ばかりで、心が通じ合う関係は少なかった。そんな中、美咲は友人から紹介された新しい男性、涼太に出会うことになる。

涼太は、美咲の大学の先輩で、独自のセンスを持ったアーティスト。彼は、トレンドデートを楽しむこともなく、むしろ一緒にいる時間を大切にすることを重視していた。初めて会ったその日、涼太は美咲にこう言った。「一緒にアートを見に行こう。最近のトレンドに流されずに、心に響くものを感じるのが大切だと思うんだ。」

美咲はその言葉に惹かれ、二人はアート展に出かけることにした。そこで、涼太の情熱やアートに対する真摯な姿勢に触れ、彼女は彼に引かれていく。涼太もまた、美咲の素直な人柄に魅力を感じていた。

デートの帰り道、涼太がふと言った。「僕たち、SNSには載せないで、二人だけの思い出を大切にしたいね。」その言葉に、美咲は心が温かくなるのを感じた。彼女は、涼太との関係がSNSの「いいね」に左右されない特別なものであることを願った。

次第に二人は、お互いの好きなことや夢について語り合うようになった。美咲は、自分が本当に好きなアートや文化についての話を涼太とすることで、自己を再発見することができた。彼女は、自分の中にあった不安や焦りが少しずつ薄れていくのを感じた。

しかし、そんな幸せな日々が続く中、涼太はふとしたことから、美咲に自分の過去を打ち明けることになった。実は彼は、数年前に恋愛で大きな傷を負い、その影響で人との関わりを避けていたのだ。美咲は彼の痛みを理解し、共感した。「私も、過去にいろんなことがあったよ。でも、今は一緒にいられることが大切なんだ。」

その言葉が、涼太の心を少しずつ開かせていった。彼は、美咲と一緒にいることで少しずつ傷が癒えていくのを感じていた。二人の関係は、SNSのトレンドにはない、深い絆に育っていった。

やがて、季節は変わり、秋の訪れと共に二人は一緒に過ごす時間が増えていった。美咲は、涼太と過ごす中で、彼の優しさや強さに触れ、彼を心から愛するようになった。しかし、美咲は、涼太が過去を完全に乗り越えていないことを感じていた。

ある日、涼太は「今度の週末、久しぶりに友人たちと集まるから、美咲も来ない?」と提案した。美咲は少し戸惑った。「私、みんなと仲良くなれるかな…?」彼女は、自分が涼太の友人たちと合わないのではないかと不安に思った。

「大丈夫だよ、みんな優しい人たちだから。美咲も一緒に楽しもう。」涼太は彼女を励まし、安心させた。しかし、集まりの日、美咲は涼太の友人たちがSNSで流行している話題ばかりを楽しんでいるのを見て、自分が置いてけぼりにされているような気持ちになった。

その夜、美咲は不安を抱えたまま涼太に電話をかけた。「涼太、私、あなたの友達の輪には入れない気がする…」彼女は素直な気持ちを伝えた。

涼太は静かに答えた。「美咲、僕は君が一番大切だよ。友達のことは気にしないで、君自身の良さを大切にしてほしい。」

その言葉に美咲は心が救われた。彼女は、自分自身を大切にし、涼太との関係を深めることができると信じた。二人は、お互いにとっての「トレンド」を自分たちで作り出すことができる関係を築いていった。

時間が経つにつれて、美咲と涼太は、お互いを理解し合うことでさらに強い絆を深めていった。彼らの恋愛は、SNSの「トレンド」に左右されない真実のものであり、二人だけの特別な世界が広がっていった。

そして、美咲は涼太と共に、愛の新しいトレンドを作り出すことができた。それは、互いの心に寄り添い、時には過去を乗り越えながらも、未来に向かって共に歩んでいく愛だった。








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

春秋花壇
現代文学
注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

生きる

春秋花壇
現代文学
生きる

陽だまりの家

春秋花壇
現代文学
幸せな母子家庭、女ばかりの日常

かあさんのつぶやき

春秋花壇
現代文学
あんなに美しかった母さんが年を取っていく。要介護一歩手前。そんなかあさんを息子は時にお世話し、時に距離を取る。ヤマアラシのジレンマを意識しながら。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本史

春秋花壇
現代文学
日本史を学ぶメリット 日本史を学ぶことは、私たちに様々なメリットをもたらします。以下、そのメリットをいくつか紹介します。 1. 現代社会への理解を深める 日本史は、現在の日本の政治、経済、文化、社会の基盤となった出来事や人物を学ぶ学問です。日本史を学ぶことで、現代社会がどのように形成されてきたのかを理解することができます。 2. 思考力・判断力を養う 日本史は、過去の出来事について様々な資料に基づいて考察する学問です。日本史を学ぶことで、資料を読み解く力、多様な視点から物事を考える力、論理的に思考する力、自分の考えをまとめる力などを養うことができます。 3. 人間性を深める 日本史は、過去の偉人たちの功績や失敗、人々の暮らし、文化などを学ぶ学問です。日本史を学ぶことで、人間としての生き方や価値観について考え、人間性を深めることができます。 4. 国際社会への理解を深める 日本史は、日本と他の国との関係についても学ぶ学問です。日本史を学ぶことで、国際社会における日本の役割や責任について理解することができます。 5. 教養を身につける 日本史は、日本の伝統文化や歴史的な建造物などに関する知識も学ぶ学問です。日本史を学ぶことで、教養を身につけることができます。 日本史を学ぶことは、単に過去を知るだけでなく、未来を生き抜くための力となります。 日本史の学び方 日本史を学ぶ方法は、教科書を読んだり、歴史小説を読んだり、歴史映画を見たり、博物館や史跡を訪れたりなど、様々です。自分に合った方法で、楽しみながら日本史を学んでいきましょう。 まとめ 日本史を学ぶことは、私たちに様々なメリットをもたらします。日本史を学んで、自分の視野を広げ、未来を生き抜くための力をつけましょう。

いとなみ

春秋花壇
現代文学
旬と彩を織り成した 恋愛・婚約破棄・日常生活 短編集 この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

処理中です...