トレンド

時代を越えて

 「時代を越えて」

広がる笑い声と、どこか懐かしさを感じさせる響きが、リビングの空気を満たしていた。古いブラウン管のような映像が流れるテレビの前で、母は笑いを堪えられず、ソファに座りながら腹を抱えている。

「やっぱり、ドリフは最高だね。」母が息を整えながらつぶやいた。

隣に座る16歳の娘、奈美はスマホから目を上げ、母の楽しそうな様子をちらりと見た。彼女にとってドリフターズは、母や祖父母世代が語る「昔のお笑い」だった。昭和の笑いというものがどれだけ自分に響くのか、正直なところ懐疑的だった。

「そんなに面白い？」奈美が尋ねると、母は笑いを抑えながら頷いた。

「うん、これはね、私が子供の頃に毎週楽しみにしてた番組だったのよ。友達と一緒に学校で話題にしてたんだから。どのコントも、家族でお腹抱えて笑ったものさ。」

奈美は少しだけ興味が湧いた。そんなに笑えるなら、自分も見てみようと思い、スマホを脇に置いて画面に集中した。

その時、テレビの中では「早口言葉」のコントが始まっていた。ドリフのメンバーが滑稽な言葉を言い合い、次々と言葉を噛んだり失敗したりして、そのたびに大げさなリアクションで場を盛り上げる。

最初は冷静に見ていた奈美だったが、メンバーのやり取りがあまりに面白く、気づけば小さく吹き出してしまった。「なんでこんなに古いのに面白いんだろう」と、自分でも不思議に感じる。大げさすぎる動きや、場の雰囲気がなんともいえず面白く、思わず声を上げて笑ってしまった。

母が満足そうに奈美を見つめているのに気づくと、奈美は少し恥ずかしくなりながらも、笑いを止められない。

「でしょ？」母が嬉しそうに言った。「時代が変わっても、人を笑わせる力って変わらないんだよ。」

奈美は頷いた。確かに、最新のコメディとは違うけれど、ドリフのコントには何か特別なものがあった。世代を超えて、こんなにも笑えるなんて驚きだ。母の言う通り、笑いは時代を超えるものかもしれない。

テレビの画面には、ワイプでスタジオの反応が映し出されていた。若いタレントたちが、コントを見ながらリアクションをしている。奈美はそれを見て一瞬だけ苛立ちを感じた。「なんでコントの途中で、こんなの入れるの？」と声に出してしまう。

母は少し困った顔をしたが、すぐに言葉を選んで返した。「それはね、今の時代の視聴者にも楽しんでもらうためなのよ。テレビ局も、昔の映像をそのまま流すわけにはいかないみたいでね。」

「でも、こんなのいらないよ。ドリフそのままでいいのに。」奈美は不満げに言った。

「そうね、私もそう思うわ。でも、時代が変わったんだから、少しずつ違っていくのは仕方ないのかもね。」

奈美は考え込んだ。母が懐かしんでいる「昭和の笑い」と、自分が楽しむ「今の笑い」の違い。その狭間で、どちらの価値が高いのか測ることはできない。けれど、確かにドリフのコントには何か普遍的なものがあり、それが彼女にも届いたのは事実だった。

ふと、奈美はスマホを手に取り、「ドリフターズ」のことを検索してみた。たくさんの情報が出てくる中、彼女はひとつの記事を見つけた。それは「ドリフの笑いは不滅だ」というタイトルがつけられていた。奈美はその言葉に共感し、思わず微笑んだ。

「お母さん、ドリフって、本当にすごいね。」

母は驚いた表情を浮かべた。「奈美がそんなこと言うなんて、信じられないわ。でも、そうでしょ？笑いって、時代も年齢も超える力があるのよ。」

奈美は再びテレビに目を向けた。画面には今も、ドリフのメンバーが大袈裟に動き回り、観客の笑いを誘っていた。時代は変わっても、人を笑わせる力は色褪せない。それが、ドリフターズの持つ本当の魔法だったのだろう。

奈美は心の中で呟いた。「ドリフって、本当にすごい。」