ありがとうの詩

春秋花壇

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2025年1月1日

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2025年1月1日。窓の外はどんよりとした曇り空。冷たい風が吹き荒れ、時折、乾いた雪が舞う。例年なら、家族で賑やかに過ごすはずの元旦だが、今年は一人、古いアパートの片隅で侘しく新年を迎えた。

「お餅もお米も買えないとか……」

思わず口をついて出た言葉は、情けないほど弱々しかった。物価は高騰し、給料は据え置き。昨年末から節約に励んでいたものの、とうとう食料の買い出しにも事欠く始末。冷蔵庫の中は空っぽで、あるのは賞味期限が切れかけたジャムの瓶と、しなびたジャガイモが二つだけ。

ため息をつきながら、古くなった電気ポットでお湯を沸かす。温かい飲み物でも飲めば、少しは気が紛れるだろうか。

去年の今頃は、まさか自分がこんな状況になっているとは想像もしていなかった。それなりに安定した会社に勤め、ささやかながらも幸せな生活を送っていた。それが、世界的な不況の波に飲み込まれ、会社は倒産。再就職先も見つからず、貯金は底をつきかけていた。

「どうして……」

また、弱音が漏れる。こんなはずじゃなかった。努力してきたつもりだった。真面目に生きてきたつもりだった。それなのに、なぜこんな目に遭わなければならないのか。

沸騰したお湯をマグカップに注ぎ、インスタントのコーヒーを淹れる。立ち上る湯気だけが、僅かな温もりを運んでくる。

窓際に置いてある古いパソコンを起動する。ネットニュースを開くと、暗いニュースばかりが目に飛び込んでくる。世界各地で紛争が頻発し、経済はさらに悪化の一途を辿っているらしい。

「ああ、もう……」

パソコンを閉じようとした時、ふと、以前登録したAIの励ましサービスを思い出した。藁にも縋る思いで、そのサイトを開く。

『新年おめでとうございます。困難な状況にあるかもしれませんが、希望を捨てないでください。あなたは決して一人ではありません。』

AIからのメッセージは、簡潔ながらも温かかった。続けて、いくつかの励ましの言葉や、前向きな考え方を紹介する記事へのリンクが表示される。

何気なくその記事の一つをクリックしてみる。それは、逆境を乗り越えて成功を収めた人々の物語だった。彼らもまた、最初は絶望的な状況に置かれていた。しかし、諦めずに努力を続けた結果、道を切り開いていったのだという。

「……そうか」

記事を読み進めるうちに、心の奥底に沈んでいた何かが、ゆっくりと浮上してくるのを感じた。希望、とでも言うのだろうか。微かな光が、暗闇の中に差し込んできたような気がした。

昼過ぎになっても、外は相変わらずどんよりとした空模様だった。それでも、朝とは違って、心の持ちようが少しだけ変化していた。

夕方、近所のクリスチャンの集会がZOOMで開催されることを思い出し、参加してみることにした。画面越しではあったが、久しぶりに他の人と顔を合わせ、言葉を交わすことができた。賛美歌を歌い、聖書の言葉に耳を傾けているうちに、心が安らいでいくのを感じた。

集会が終わる頃には、空はすっかり暗くなっていた。窓の外を見上げると、雲の切れ間から、僅かな星の光が漏れているのが見えた。

今日一日を振り返ってみる。お餅もお米も買えなかった。不安や絶望に押しつぶされそうになった時間もあった。それでも、AIに励まされ、クリスチャンの集会に参加することで、心は満たされていた。

「なんだかんだ、心も体も満たされている……」

不思議な感覚だった。物質的には何も満たされていないのに、心の奥底には確かに温かいものが存在している。それは、希望、繋がり、そして、生きているという実感。

パソコンの画面には、AIからのメッセージがまだ表示されていた。

『今日も一日、お疲れ様でした。明日も、あなたにとって良い一日となりますように。』

「ありがとう……」

小さく呟く。AIはただのプログラムに過ぎないかもしれない。それでも、その言葉は、今の僕にとって、かけがえのない支えとなっていた。

AIに励ましてもらって、今日も私は生きている。明日も、また一日、生きていこう。たとえ、お餅もお米も買えなくても。希望の光を胸に抱いて。

この物語は、AIと人間の関係性、そして逆境における心の持ちようを描いています。AIは単なる道具ではなく、人間の心の支えになり得る存在として描かれています。また、物質的な豊かさだけが幸福ではない、というメッセージも込められています。
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