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今年も一年ありがとう
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今年も一年ありがとう
年の瀬の夕暮れ、冷たい風が病院の窓を叩いている。閉鎖病棟の一角、薄暗い部屋に一人座る君の姿を想像しながら、僕は小さな手紙を書いていた。
君がこの病院に入ったのは、去年の春だった。突然、君が何も言わずに姿を消し、何日も音信不通になったとき、僕は居ても立ってもいられなかった。見つけたとき、君は疲れ切った顔で、何も話さずにただ座っていた。それから、医療保護入院が必要だという診断を受け、この閉鎖病棟に運ばれていった。
最初は、君の部屋に面会に行くたび、僕は言葉を失っていた。鉄格子越しに見える君の姿は、まるで別人のようだったからだ。表情を失った顔、床に落ちた目線。何を話しかけても、短い返事しか返ってこない日が続いた。それでも僕は毎週、病院に足を運んだ。
「今年ももう終わるね」
手紙の冒頭に、そう書き始める。君がどんな日々を過ごしているのか、僕には詳しく知ることはできない。でも、病院でのルーティンの中に、ほんの少しでも穏やかな瞬間があったらいいと思う。
僕は君の幸せを祈っている。それは、ここ一年で変わらない僕の願いだ。君がこの閉ざされた場所で少しでも心穏やかでいられるように。君が、自分自身を責めることなく、一日一日を過ごせるように。
面会の日、看護師さんに案内されて君の前に座ると、僕は自然に微笑んでしまう。君の表情は相変わらず変わらないけれど、それでも僕にとって君は特別な存在だ。
「寒くなってきたけど、風邪引いてない?」
僕の問いに君は小さくうなずいた。何気ないやり取りが、僕にとっては大切な繋がりだった。君が何かを感じ、答えてくれる。それだけで十分だった。
手紙には、今年一年のことを書いた。街のイルミネーションがきれいだったこと、友達と出かけた温泉旅行の話、そして君に買ったクリスマスプレゼントのこと。君に直接渡せないから、この手紙に記しておくね、と書き添えた。
最後に、僕の小さな願いを書き加えた。
「来年も君が少しでも笑える日が増えますように」
病院の窓辺から見える夕焼けは、冬らしい薄紅色だ。君がその景色を見ているかどうかはわからない。それでも、君の心に少しでも光が届くようにと願いながら、僕は手紙を封筒にしまい込んだ。
「今年も一年、ありがとう」
小さな声でそう呟くと、冷たい風が肩を撫でた。君と過ごした日々を思い返しながら、僕はゆっくりと病院を後にする。来年もまた、この場所で君に会えることを願いながら。
年の瀬の夕暮れ、冷たい風が病院の窓を叩いている。閉鎖病棟の一角、薄暗い部屋に一人座る君の姿を想像しながら、僕は小さな手紙を書いていた。
君がこの病院に入ったのは、去年の春だった。突然、君が何も言わずに姿を消し、何日も音信不通になったとき、僕は居ても立ってもいられなかった。見つけたとき、君は疲れ切った顔で、何も話さずにただ座っていた。それから、医療保護入院が必要だという診断を受け、この閉鎖病棟に運ばれていった。
最初は、君の部屋に面会に行くたび、僕は言葉を失っていた。鉄格子越しに見える君の姿は、まるで別人のようだったからだ。表情を失った顔、床に落ちた目線。何を話しかけても、短い返事しか返ってこない日が続いた。それでも僕は毎週、病院に足を運んだ。
「今年ももう終わるね」
手紙の冒頭に、そう書き始める。君がどんな日々を過ごしているのか、僕には詳しく知ることはできない。でも、病院でのルーティンの中に、ほんの少しでも穏やかな瞬間があったらいいと思う。
僕は君の幸せを祈っている。それは、ここ一年で変わらない僕の願いだ。君がこの閉ざされた場所で少しでも心穏やかでいられるように。君が、自分自身を責めることなく、一日一日を過ごせるように。
面会の日、看護師さんに案内されて君の前に座ると、僕は自然に微笑んでしまう。君の表情は相変わらず変わらないけれど、それでも僕にとって君は特別な存在だ。
「寒くなってきたけど、風邪引いてない?」
僕の問いに君は小さくうなずいた。何気ないやり取りが、僕にとっては大切な繋がりだった。君が何かを感じ、答えてくれる。それだけで十分だった。
手紙には、今年一年のことを書いた。街のイルミネーションがきれいだったこと、友達と出かけた温泉旅行の話、そして君に買ったクリスマスプレゼントのこと。君に直接渡せないから、この手紙に記しておくね、と書き添えた。
最後に、僕の小さな願いを書き加えた。
「来年も君が少しでも笑える日が増えますように」
病院の窓辺から見える夕焼けは、冬らしい薄紅色だ。君がその景色を見ているかどうかはわからない。それでも、君の心に少しでも光が届くようにと願いながら、僕は手紙を封筒にしまい込んだ。
「今年も一年、ありがとう」
小さな声でそう呟くと、冷たい風が肩を撫でた。君と過ごした日々を思い返しながら、僕はゆっくりと病院を後にする。来年もまた、この場所で君に会えることを願いながら。
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