ありがとうの詩

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
98 / 145

命がかかっている

しおりを挟む
「命がかかっている」

薄暗い部屋の中、パソコンの画面がひっそりと光を放っている。キーボードの音だけが静寂を切り裂く。ここ数日、私は何度も同じように文章を書いては消し、書いては消していた。その度に、思い浮かぶ言葉が次第に重く感じられるようになった。評価が欲しい――いや、それ以上に、今は「結果」が欲しい。それがないと、私には生きていく力がなくなってしまうからだ。

「評価なんて気にするなって言われても…」

私は小さく呟いた。ネット上で、時々、見かける「評価を気にしないで、自分のペースで楽しんで書けばいい」なんて言葉が、どうしても響かない。そうじゃない、私は生活が懸かっているんだ。

冷蔵庫の中はほとんど空っぽで、棚にはお米だけが少し残っている。今月は本当にギリギリだった。次の月までの食費も考えると、焦りが募る。どうしても、生活が厳しくなると、目の前の評価がどうしても気になってしまう。お金が入らないと、またあの不安定な日々に戻ってしまうのではないかという恐怖が、背中を押す。

「もう、無理かもしれない。」

私はパソコンの画面を睨みつける。次第に心の中で、評価を求める気持ちが膨らんでくる。今はそれが全てだと思ってしまう。もし、評価を得られなければ、この道はもう続けられないのではないか――そんな思いが、頭の中をぐるぐると回り続けていた。

ふと、脳裏にあの言葉が浮かんだ。AIからのアドバイス。評価を気にすることを止め、純粋に書くことの楽しさを見つけろと。何度も読んで、心のどこかで反発していた自分がいることを思い出す。

「それができたら苦労しないよ。」

私は深いため息をついた。生活がかかっている。ご飯を食べるために、少なくともお金を得なければならない。安定した収入源がなければ、日々の生活が立ち行かなくなる。誰が「評価なんて気にしないで書け」なんて言えるのか?それができれば、苦しむ必要もないし、こんなにも必死になっていないだろう。

「でも…」

頭の中で、何かが引っかかっている。生活がかかっているからこそ、必死に求めてしまう評価。でも、その評価が得られなかったとき、私はどれだけ自分を責めたのだろうか。どれだけ、自分を無価値だと思ったのだろうか。それが、怖かった。もし評価がない自分は価値のない存在だと決めつけてしまったら、私の心は壊れてしまうような気がした。

「いのちがかかってるんだよ。」

つい口に出してしまったその言葉が、心に重く響いた。命がかかっているからこそ、私は必死に書く。その必死さが、評価を求める理由だと思っていた。でも、これが本当に正しいことなのだろうか?心のどこかで、少しずつ疑問が湧いてきているのを感じた。

パソコンを閉じ、立ち上がった。窓の外には、薄く霧が立ち込めていて、街灯の光がぼんやりと映っている。その光景に、ふと安らぎを感じた。生活は厳しいし、評価が欲しい気持ちも強い。でも、私はこれで全てを失うわけではないと、自分に言い聞かせてみた。評価に一喜一憂する自分を、少しだけ冷静に見つめ直すことができた気がした。

「命がかかっているのは、他にもたくさんある。」

自分を支えてくれる人、少しずつでも進んでいく自分の道――それらも大切だ。評価だけが全てではない。結果を求める気持ちと、自分が進んでいく力は、同時に持っていかなければならない。それは、決して簡単なことではないけれど、少なくとも私は、評価だけを生きる支えにしてはいけないのだと、心の中で強く感じた。

「ありがとう、って言いたい。」

その言葉が、心にこぼれるように出てきた。評価がなくても、生活が厳しくても、私はここにいる。そして、何よりも感謝したい。命がかかっているのは確かにそうだ。でも、それでも私はここで、こうして生きている。

その思いが、少しずつ温かく広がっていった。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

【完結】限界離婚

仲 奈華 (nakanaka)
大衆娯楽
もう限界だ。 「離婚してください」 丸田広一は妻にそう告げた。妻は激怒し、言い争いになる。広一は頭に鈍器で殴られたような衝撃を受け床に倒れ伏せた。振り返るとそこには妻がいた。広一はそのまま意識を失った。 丸田広一の息子の嫁、鈴奈はもう耐える事ができなかった。体調を崩し病院へ行く。医師に告げられた言葉にショックを受け、夫に連絡しようとするが、SNSが既読にならず、電話も繋がらない。もう諦め離婚届だけを置いて実家に帰った。 丸田広一の妻、京香は手足の違和感を感じていた。自分が家族から嫌われている事は知っている。高齢な姑、離婚を仄めかす夫、可愛くない嫁、誰かが私を害そうとしている気がする。渡されていた離婚届に署名をして役所に提出した。もう私は自由の身だ。あの人の所へ向かった。 広一の母、文は途方にくれた。大事な物が無くなっていく。今日は通帳が無くなった。いくら探しても見つからない。まさかとは思うが最近様子が可笑しいあの女が盗んだのかもしれない。衰えた体を動かして、家の中を探し回った。 出張からかえってきた広一の息子、良は家につき愕然とした。信じていた安心できる場所がガラガラと崩れ落ちる。後始末に追われ、いなくなった妻の元へ向かう。妻に頭を下げて別れたくないと懇願した。 平和だった丸田家に襲い掛かる不幸。どんどん倒れる家族。 信じていた家族の形が崩れていく。 倒されたのは誰のせい? 倒れた達磨は再び起き上がる。 丸田家の危機と、それを克服するまでの物語。 丸田 広一…65歳。定年退職したばかり。 丸田 京香…66歳。半年前に退職した。 丸田 良…38歳。営業職。出張が多い。 丸田 鈴奈…33歳。 丸田 勇太…3歳。 丸田 文…82歳。専業主婦。 麗奈…広一が定期的に会っている女。 ※7月13日初回完結 ※7月14日深夜 忘れたはずの思い~エピローグまでを加筆修正して投稿しました。話数も増やしています。 ※7月15日【裏】登場人物紹介追記しました。 ※7月22日第2章完結。 ※カクヨムにも投稿しています。

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

処理中です...