ありがとうの詩

春秋花壇

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冬至の灯

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「冬至の灯」

朝の冷えた空気が肌を刺すようだった。窓の外では冬枯れの木々が風に揺れ、薄曇りの空に沈んだ太陽がかすかに光を放っている。美和はコーヒーカップを手にしながら、息子のことを考えていた。

彼が医療保護入院となってから、もう40日が過ぎた。その間、美和は何度も病院を訪ね、ガラス越しに息子の顔を見つめた。かつての生き生きとした彼の表情は失われ、どこか遠い世界にいるような瞳をしていた。それを見るたびに胸が締めつけられたが、息子のためにはこれが最善だと自分に言い聞かせる日々だった。

「どうしてこうなってしまったんだろう。」

ぽつりと呟いた言葉が、静かな部屋に響いた。彼が小さかった頃の笑顔が思い浮かぶ。転んで泣きながらも、「もう一回やる!」と走り出したあの姿。美和の胸の中で、彼の成長を見守った記憶が何度もよみがえる。

けれど今は、その笑顔が曇りに隠れている。ただ、彼の存在が消えたわけではないことを美和は知っていた。どんなに遠く感じても、息子は確かにここにいる。

夕方、美和は買い物袋を抱えて帰宅した。冬至が近いこともあって、店先にはかぼちゃやゆずが並んでいた。袋の中には、息子が好きだったかぼちゃも入っている。

「冬至の夜くらい、温かいものを作ろう。」

鍋の中で煮えるかぼちゃから甘い香りが立ち上る。ひとりきりの食卓はどこか物足りなかったが、美和は静かに箸を進めた。食事を終えたあと、彼女はゆずを浮かべた湯船に浸かった。

ふっと息を吐き出すと、心の奥に積もった悲しみが少しだけ溶けるような気がした。

「きっと彼も、少しずつ良くなる。」

自分にそう言い聞かせることで、暗闇の中に小さな光が見えた気がした。

その夜、美和は病院からの電話を受け取った。看護師の優しい声が受話器の向こうから聞こえた。

「お母様、息子さんが少し話をしたいと言っています。」

驚きと喜びが胸に押し寄せ、美和は震える手で受話器を握りしめた。

「お母さん……」

久しぶりに聞く息子の声は弱々しかったが、確かに彼だった。

「どうしてるの?」美和は静かに問いかけた。

「ごめんね、迷惑かけて。」

「そんなこと言わないで。あなたが元気でいてくれるなら、それだけでいいのよ。」

言葉が詰まり、涙が頬を伝った。でも、それは悲しみだけではなかった。彼の声を聞けたことが、何よりも幸せだった。

電話を切ったあと、美和は小さなランプを灯した。それは息子が幼い頃、家族で過ごしたクリスマスの思い出とともに箱の中にしまわれていたものだった。

「この光が、あなたを照らしますように。」

彼女は祈るように呟いた。そして、その光が自分自身の心にも温かさをもたらしていることに気づいた。

美和はもう一度窓の外を見た。冬至の夜は長いが、それでもやがて朝は来る。息子の心にも、必ず新しい光が差し込むだろう。彼が戻ってくるその日まで、美和は小さな灯を絶やさないと心に決めた。

夜が深まり、静寂が部屋を包む中、美和はゆっくりと目を閉じた。彼女の胸には、確かに希望の光が灯っていた。







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