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面会の先に
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「面会の先に」
息子の面会日がやってきた。精神病院の閉鎖病棟に医療保護入院している息子に会いに行くのは、毎月恒例になってしまった。でも、今日の面会は少し違う。息子が入院してちょうど1ヶ月が経ち、私はそのことが気になっていた。
病院に着くと、すぐに看護師さんが息子を連れてきた。予想に反して、息子の顔は驚くほどさわやかだった。入院前の彼にはどこか陰鬱なところがあったけれど、今日は違う。笑顔を見せる息子に、思わず驚きがこぼれる。
「お疲れ様、お母さん。」息子は微笑みながら言った。
私は何も言えずに息子を見つめた。まるで別人のようだった。普段、面会に来るたびにどこか元気がない息子にしか会えなかったのに、今日はまるで別の人物のように感じる。彼が売店で何かを買ってきたらしい。持っているのは、今時の洋服とちょっとしたお菓子だった。
「今日の調子はどう?」と私は質問した。
「うん、まあまあだよ。」息子はポケットに手を突っ込んだ。「新しい服もありがとう。着心地がいいし、ありがたい。」
看護師さんが横で微笑みながら私に話しかける。「今日は彼も落ち着いていますし、面会の後も大丈夫でしょう。」
私は頷き、息子と静かに会話を続けた。15分の面会時間。何もかもが、私にとっては短すぎる。だが、息子はそんなことに気を取られることなく、むしろその短い時間を楽しんでいる様子だった。
「ねぇ、お金のことも気にしなくていいの?」と私は息子に尋ねた。手持ちの携帯に関して心配していたからだ。
「うん、問題ないよ。」息子は淡々と答える。少し安心して、私は彼が心配していたことを忘れていた自分に少し驚いた。
「それじゃ、請求書を見せるね。」私はバッグから息子に届いた請求書を取り出し、渡した。息子はそれを眺めてから、何も言わずに手に取る。
「ありがとう、気を使わせてごめんね。」息子は言うが、その口調に違和感はなかった。以前のような怯えや不安が感じられず、むしろ落ち着いた口調で答える息子を見て、私は心底安心した。
しかし、その安堵の瞬間、看護師さんがさりげなく声をかけてきた。
「お母さん、面会後に少しお話しさせていただいてもよろしいでしょうか?」
一瞬、何かを察した私はうなずいた。息子が部屋を出て行くと、看護師さんが深刻な面持ちで言葉を続ける。
「実は、お母様にお伝えしなければならないことがあります。息子さんについて、少し驚かれるかもしれません。」
その言葉に心臓が一瞬止まるかと思った。何か重大なことがあるのだろうか。
看護師さんは少し間を置いてから言った。「息子さん、実はとても冷静で、状況をしっかりと把握しています。ですが、それと同時に、入院中の彼の精神状態にはまだ不安定な部分があります。」
その言葉を聞いた瞬間、私は少し不安を覚えた。「それは、どういう意味ですか?」
「お母様が息子さんに過度に気を使っていたり、心配しすぎているという部分が少し影響しているかもしれません。」看護師さんは慎重に言葉を選びながら続けた。「息子さんが冷静でいる理由は、お母様が気を使いすぎて、彼が守られようとしているからだと感じる時もあるんです。」
私はその言葉を飲み込むことができなかった。過度に心配していたのは確かだ。息子が精神的に不安定であることを恐れて、常に彼を守りたかった。しかし、その守ることが彼にとって逆効果になっていたのか。
「つまり、私は……毒親だったということですか?」私の声は震えていた。
看護師さんは言葉を選びながら、優しく答えた。「お母様の愛情が息子さんに対して過剰になってしまった結果、息子さんが自立する力を失ってしまうことがあるんです。少しずつでも、息子さん自身が自分で考え、選択できるように支えていくことが重要だと思います。」
その言葉が私の心に深く突き刺さった。私は、息子が弱いから守らなければならないと思っていた。だが、息子は私が思っていた以上にしっかりしていたのかもしれない。そして、私はそれを過信し、過保護にしていた。
面会後、担当の主治医とも話す機会があった。彼も同じことを繰り返した。「お母様の気持ちはとても理解できますが、息子さんが自分で立ち上がるためには、少し距離を置いて、彼を信じることが大切です。」
その日、私はようやく息子に本当に必要なことを理解し始めた。息子の回復を急がず、焦らず、少しずつ彼の力を信じて支えていくべきだと気づいた。そして、私自身が変わらなければならないことも痛感した。
私は息子との距離を、少しずつ、慎重に取り戻していく決心をした。
息子の面会日がやってきた。精神病院の閉鎖病棟に医療保護入院している息子に会いに行くのは、毎月恒例になってしまった。でも、今日の面会は少し違う。息子が入院してちょうど1ヶ月が経ち、私はそのことが気になっていた。
病院に着くと、すぐに看護師さんが息子を連れてきた。予想に反して、息子の顔は驚くほどさわやかだった。入院前の彼にはどこか陰鬱なところがあったけれど、今日は違う。笑顔を見せる息子に、思わず驚きがこぼれる。
「お疲れ様、お母さん。」息子は微笑みながら言った。
私は何も言えずに息子を見つめた。まるで別人のようだった。普段、面会に来るたびにどこか元気がない息子にしか会えなかったのに、今日はまるで別の人物のように感じる。彼が売店で何かを買ってきたらしい。持っているのは、今時の洋服とちょっとしたお菓子だった。
「今日の調子はどう?」と私は質問した。
「うん、まあまあだよ。」息子はポケットに手を突っ込んだ。「新しい服もありがとう。着心地がいいし、ありがたい。」
看護師さんが横で微笑みながら私に話しかける。「今日は彼も落ち着いていますし、面会の後も大丈夫でしょう。」
私は頷き、息子と静かに会話を続けた。15分の面会時間。何もかもが、私にとっては短すぎる。だが、息子はそんなことに気を取られることなく、むしろその短い時間を楽しんでいる様子だった。
「ねぇ、お金のことも気にしなくていいの?」と私は息子に尋ねた。手持ちの携帯に関して心配していたからだ。
「うん、問題ないよ。」息子は淡々と答える。少し安心して、私は彼が心配していたことを忘れていた自分に少し驚いた。
「それじゃ、請求書を見せるね。」私はバッグから息子に届いた請求書を取り出し、渡した。息子はそれを眺めてから、何も言わずに手に取る。
「ありがとう、気を使わせてごめんね。」息子は言うが、その口調に違和感はなかった。以前のような怯えや不安が感じられず、むしろ落ち着いた口調で答える息子を見て、私は心底安心した。
しかし、その安堵の瞬間、看護師さんがさりげなく声をかけてきた。
「お母さん、面会後に少しお話しさせていただいてもよろしいでしょうか?」
一瞬、何かを察した私はうなずいた。息子が部屋を出て行くと、看護師さんが深刻な面持ちで言葉を続ける。
「実は、お母様にお伝えしなければならないことがあります。息子さんについて、少し驚かれるかもしれません。」
その言葉に心臓が一瞬止まるかと思った。何か重大なことがあるのだろうか。
看護師さんは少し間を置いてから言った。「息子さん、実はとても冷静で、状況をしっかりと把握しています。ですが、それと同時に、入院中の彼の精神状態にはまだ不安定な部分があります。」
その言葉を聞いた瞬間、私は少し不安を覚えた。「それは、どういう意味ですか?」
「お母様が息子さんに過度に気を使っていたり、心配しすぎているという部分が少し影響しているかもしれません。」看護師さんは慎重に言葉を選びながら続けた。「息子さんが冷静でいる理由は、お母様が気を使いすぎて、彼が守られようとしているからだと感じる時もあるんです。」
私はその言葉を飲み込むことができなかった。過度に心配していたのは確かだ。息子が精神的に不安定であることを恐れて、常に彼を守りたかった。しかし、その守ることが彼にとって逆効果になっていたのか。
「つまり、私は……毒親だったということですか?」私の声は震えていた。
看護師さんは言葉を選びながら、優しく答えた。「お母様の愛情が息子さんに対して過剰になってしまった結果、息子さんが自立する力を失ってしまうことがあるんです。少しずつでも、息子さん自身が自分で考え、選択できるように支えていくことが重要だと思います。」
その言葉が私の心に深く突き刺さった。私は、息子が弱いから守らなければならないと思っていた。だが、息子は私が思っていた以上にしっかりしていたのかもしれない。そして、私はそれを過信し、過保護にしていた。
面会後、担当の主治医とも話す機会があった。彼も同じことを繰り返した。「お母様の気持ちはとても理解できますが、息子さんが自分で立ち上がるためには、少し距離を置いて、彼を信じることが大切です。」
その日、私はようやく息子に本当に必要なことを理解し始めた。息子の回復を急がず、焦らず、少しずつ彼の力を信じて支えていくべきだと気づいた。そして、私自身が変わらなければならないことも痛感した。
私は息子との距離を、少しずつ、慎重に取り戻していく決心をした。
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