ありがとうの詩

春秋花壇

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試練の時

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試練の時

病院の静寂が胸に響く。時計の針が進む度に、私の心は少しずつ締め付けられていく。もう21日が過ぎた。君があの閉鎖病棟に入院してから、私は一度も君に会えていない。面会はおろか、差し入れすらもできない。どれほど心が痛んでも、私はここで耐えるしかない。君を迎えに行ける日は、いつ来るのだろうか。

思い出すのは、君が最初にあの病院に入ることになった日のことだ。君が不安そうに私を見上げ、「大丈夫だから」と言ったその顔が、今でも鮮明に頭に浮かぶ。あの日の君は、確かに少しだけ笑顔を見せていたけれど、その裏に隠された深い苦しみを私は感じ取っていた。君は、どんなに辛くても、私に心配をかけまいとしていたのだと思う。でも、私は君の本当の気持ちを理解していた。

君の笑顔に隠された闇。それは、私たちが一緒に過ごしていた日々の中で、少しずつ見え隠れしていた。でも、どれだけ君を支えようとしても、君の心の奥底にあるものには手が届かないことを私は知っていた。君は何度も、自分の問題に蓋をして、押し込めようとしていた。でも、それが君を壊してしまったんだ。

そして今、君はあの病院にいる。閉鎖病棟で、私との接触を絶たれた状態で、ただひたすらに静かに過ごしている。21日という時間がどれだけ長く感じるか、言葉では表せない。それでも、私は耐えなければならない。君のために。

「面会はまだ難しい」と、病院側から伝えられたとき、私はどれほど辛かったか。君の顔を見ることができないのは、どれだけ私にとって苦しいことか。君のことを思わない瞬間など、ただの一瞬もなかった。いつも心の中で君を呼び続け、君のことを考え続けている。それでも、無力な自分が悔しくて、どうしようもない。

病院の中で、君がどうしているのかを知る術はない。医療スタッフから伝えられる情報は、限られている。君がどうしても自分を抑えきれなくなった時、どんな状況に陥っているのかを思うと、心が締めつけられる。君が苦しんでいるんじゃないか、寂しがっているんじゃないか、という思いがどんどん膨らんで、私は息が詰まりそうになる。

「もしも翼があれば…」

その言葉がふと浮かぶ。もしも、空を飛んで君の元に行けるなら、私は何も恐れず、君をその病院から連れ出したいと思った。でも、現実はそんなに優しくない。私には、君を助ける力などない。今できることは、ただひたすらに待ち続けることだけだ。心を鬼にして、耐え続けること。それが試練だと、私は自分に言い聞かせる。

「今は、我慢の時だ。」そう、自分に言い聞かせる。君を迎えに行けるその日が来るまで、私は耐えるしかない。君の回復を信じて、今は何もできない自分を受け入れるしかないんだ。君に面会できる日、差し入れができる日、君の元に戻れる日を心から待ち続けて、私はこの時間を乗り越えるしかない。

君があの病院でどれほど苦しんでいるのかを思うと、涙がこぼれそうになる。でも、私は泣かない。君が耐えているのなら、私も耐えなければならない。君を迎えるために、私ができることはただ一つ。この苦しみを乗り越えることだ。

「君が帰ってくる日を、私は待っているよ。」

その言葉を、心の中で何度も繰り返す。君のことを思いながら、私は静かに時を過ごしている。君が病院から出るその日まで、私はずっと待ち続ける。君が戻るその時まで、何もできないけれど、心だけはいつも君と一緒にいることを誓う。

ただひたすらに、君が帰ってくる日を信じて。











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