ありがとうの詩

春秋花壇

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もうすぐ夜が明ける

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『もうすぐ夜が明ける』

20日目。静かな夜の中、明け方が近づいている。病院の閉鎖病棟では、まだ誰も起きていない。空気はひんやりと冷たく、何もかもがまだ眠っているような感覚が漂う。私は自分の手帳を開き、昨夜の気持ちを記録するためにペンを取った。

「平安がありますように。」

心の中で、君に届けと祈る言葉が浮かぶ。君が入院してから20日が過ぎた。初めて君がここに来るとき、私はどれほど不安だったか。君が耐えられるだろうか、君が苦しんでいないだろうかと、心配ばかりしていた。でも今、こうして君のために祈る時間ができていることが、少しは自分の中で前向きな兆しのように感じられる。

「自分と折り合いをつけられますように。」

君の病気は簡単に説明できるものではないし、私は医者ではないから、君の気持ちや思いをすべて理解することはできない。でも、君が少しでも穏やかな気持ちで過ごせるように、私ができることはただ祈ることだと思う。それでも、君が少しでも自分を受け入れ、心の中で折り合いをつけられることを願うばかりだ。

「過度に自分を責めたりしませんように。」

これは、君への最大の願いかもしれない。君がここに来る前、どれほど自分を責めていたか、どれほど自分を傷つけていたかを知っているからこそ、この言葉が切実に響く。誰もが自分を責めることがあるけれど、君はその辛さに耐えられず、さらに深く沈んでしまうことが多かった。でも、今は少しずつでも、その鎖を解いてほしいと思う。

「自分を愛し育てることができますように。」

これが最後の言葉だ。君にとって一番大事なのは、他人を愛することではない。まずは自分を大切にすることだと、私は感じている。君が少しでも自分を愛することができるように、少しでも自分に優しくできるように、私は心から願っている。

「おはよう。」

私は深く息を吐いて、手帳を閉じると、病院の廊下を歩き始めた。まだ誰も目を覚まさない時間だが、君が起きる頃には、少しでも穏やかな日が訪れることを願っている。

君の部屋に到着する前、私は小さなノートを取り出し、これまでの20日間を振り返った。君が入院した日から、私は毎日このノートをつけてきた。病院の窓から見える景色、君が少し笑った瞬間、看護師さんが優しく君に話しかけている様子。どれも私には宝物のような瞬間だった。

そして、君が静かに眠っている姿を見たとき、私は改めて君がここにいることがどれほど大切で、どれほどありがたいことなのかを感じていた。

病室の扉をそっと開けると、君はまだ寝ている。白いシーツに包まれた君の姿を見つめ、私は穏やかな気持ちになる。君が眠っている間に、少しでも楽になってくれていることを願う。夜の暗さの中でも、君が少しでも安らげる場所を見つけられることを。

「おはよう。」

君の顔に優しく声をかけ、私は静かにその場に座った。君は少し目を開け、私を見つめる。眠そうな目が少しだけ開き、私に微笑みかける。その瞬間、私は少しだけほっとして、心の中で静かに息をつく。

君がこの病院に来てから、少しずつ、君の気持ちが変わっていくのを感じている。最初は言葉を発することもなく、目を合わせることさえ難しそうだった君が、少しずつ自分を取り戻していく様子を見守ることができて、私は幸せだと感じている。

「今日は、何かしたいことがある?」私はやさしく尋ねる。

君は少し考えてから、小さく答える。「今日は、少し散歩したい。」

その言葉に私は嬉しさを感じ、すぐに君の手を取った。散歩をすることが君の心にどれほどの意味を持つのかはわからないけれど、私にとってはその一歩一歩が君の回復への道のりだと思っている。

一歩一歩が、君を救い、そして私たちの関係を深めていく。お互いに傷つき、迷い、そして少しずつ歩んでいく。君がどんなに辛い時期を過ごしていたとしても、私は君のそばにいる。君がどんな顔をしても、どんな言葉を発しても、私は君を愛し続ける。

これからもずっと、君の手を取って歩んでいきたいと思う。だから、今日も一緒に散歩しながら、少しずつでも前に進んでいこう。

「おはよう、君。」






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