干物女を圧縮してみた

春秋花壇

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セルフネグレクトからの一歩

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「セルフネグレクトからの一歩」

風見日和(かざみひより)は、気づけば部屋の隅で一日を過ごすようになっていた。以前は、彼女も清潔な部屋で自炊をし、家族や友人と笑顔を交わす日々を送っていたが、どこで道を踏み外したのか、生活は暗い影を落とすようになっていた。

机の上には、使いかけの薬や空き缶、服が山積みだ。いつの間にか部屋の光も薄れて、カーテンすら開けることが億劫に感じられた。「どうしてこんなことになってしまったんだろう……」と小さく呟いた日和の言葉は、自分でも聞こえないほどのか細い声だった。

ある日、そんな彼女のスマートフォンが振動した。通知を確認する気力もないまま手に取ったが、見覚えのある名前が目に入る。「優子」──かつての同僚で、仕事をしていた頃に仲が良かった友人だった。

「ひより、最近どうしてる?なんだか急に連絡したくなっちゃって」と短いメッセージが送られてきていた。

日和は驚いた。長らく連絡を絶っていた彼女が急にどうしたのだろう?すぐに返信するか悩んだが、「元気にしてる」とだけ返すことにした。数分後、「今度、少しだけでも会えないかな?」という返事が返ってきた。その誘いに、日和の胸が少しだけ温かくなった気がした。

少しずつ会う日が近づくにつれ、日和は心の中で葛藤を感じ始めた。会いたい気持ちはあるが、このままの姿を見せるのが怖かった。優子に会って、自分が変わってしまったことを見せるのが恥ずかしいと思ったのだ。

それでも、数年間疎遠になっていた彼女からの誘いを無下にすることもできず、ついに外出の日がやってきた。玄関を出るまでに時間がかかったが、久しぶりにシャワーを浴び、洋服を選び、やや不安定ながらも街に向かった。

カフェの入り口で待っていると、すぐに優子が駆け寄ってきた。「日和!久しぶりだね!」と優しい笑顔を向けてくれる優子の顔に、日和は少し泣きそうになった。ふと鏡に映った自分の姿が、ほんの少し違って見える気がしたのだ。

話が弾むうちに、日和は自然と自身のことを話し始めた。仕事を辞めてからのこと、ふさぎ込んでしまった生活、誰にも言えなかった苦しみ──優子はそのすべてに耳を傾けてくれた。話をするうちに、少しだけ心が軽くなるのを感じた。

「今は何かを急に変えようとしなくていいよ。でも、一つずつ、少しだけでも変えていければ、それが自分を取り戻す一歩になるんじゃない?」と優子は微笑んだ。その言葉が、日和の中で静かに響いた。

カフェを出た後、日和は小さな決意をした。少しだけ部屋を片付けてみよう、そして、少しだけ朝の光を浴びようと。帰宅して部屋に入ると、カーテンを開け、窓を少しだけ開けた。冷たくも心地よい秋の風が、彼女の部屋にそよぎ込んだ。その風が、心の中の淀んだ空気も吹き飛ばしてくれるような気がした。

翌朝、いつもなら眠り続けている時間に目を覚ました。まぶしい朝日が窓から差し込み、日和の心に小さな暖かさを運んでくる。「少しずつ……ね」とつぶやきながら、彼女はまた一歩、新しい一日を歩み出す準備を始めた。









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