干物女を圧縮してみた

春秋花壇

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干物女の朝の庭

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干物女の朝の庭

日和は、公園を後にし、自宅の庭に足を踏み入れた。庭は、彼女が手をかけた小さな楽園だった。イヌタデが小さなピンクの花をふんだんに付けて、まるでおはようの挨拶をしているかのように見えた。その美しさに、日和は思わず微笑む。

「おはよう、みんな」と、彼女は小声で挨拶をする。日和の心は、庭の生き物たちと共鳴する。彼女は毎朝この景色を眺めるのが好きだった。ねこのひげが髭のようにしべを伸ばし、誇らしげにツンとお澄まししている。まるで、庭の主のようだ。

その瞬間、日和の目に留まったのは、小さな蝶たちだった。彼女の頭上を舞い、花々の周りで遊ぶように飛び回っている。日和は、彼らの軽やかな動きに心を奪われ、思わず目を細めた。彼女にとって、蝶は自由の象徴であり、どんなに小さくても自分を持った存在だ。

「あなたたちは、自由だね」と日和はつぶやいた。彼女は庭の中で、蝶たちの舞う姿を見ていると、自分もその一員になれたらいいのにと思った。自由に飛び回ることができたら、どれだけ気持ちが楽になるだろう。

だが、庭の隅に目をやると、大きな毛虫がペンタスの新芽を食らっているのを見つけた。日和は、少し残念な気持ちになった。毛虫は、まるで目の前にある美味しいものを食らいつくすことしか考えていないかのようだった。葉脈だけが残る姿は、共存や共栄を考えられず、ただ自分の欲望のままに動く存在のように思えた。

「心ないものは、こうやって周りの美しさを壊していくのね」と、日和はため息をついた。ふと、自分のことを考えた。彼女は、「干物女」と自称しているが、果たして本当にそうなのだろうか。社会の期待や評価を気にせず、自由に生きることができているのは、この庭のおかげだと思った。

「それに比べて、私は干物女でも強欲じゃないだけ、まだましかな?」と日和は笑った。彼女は自分を卑下するのが癖だったが、実際には干物女であることを恥じる必要はないのかもしれないと感じていた。彼女は、自己を受け入れることに少しずつ慣れてきていたのだ。

日和は庭の中を歩き回りながら、花々や植物たちに水を与え始めた。手をかけることで、彼女は少しずつ成長していく植物たちに自分自身を重ね合わせていた。毎日の小さな変化を見つけることで、自分の成長を感じることができるのだ。

「私も、少しずつ成長している」と日和は思った。庭の草花たちと共に、自分の心も少しずつ豊かになっていく。彼女は、他人の期待に応えようとするのではなく、自分自身の幸せを追求することが大切だと気づき始めていた。

日が高く昇るにつれて、庭はますます色とりどりの生命に満ちていく。日和は、毎日の忙しさに埋もれそうな自分を見つめ直し、自由に生きることがどれほど素晴らしいことかを再確認した。

「この庭のように、私は誰かを食らう存在になりたくない」と日和は心に誓った。彼女は、他人を思いやり、共存することでこそ、本当の幸せが生まれることを知っていた。

朝の光の中で、日和は自分自身を見つめ直すことができた。庭の生き物たちのように、彼女も自由に、そして豊かに生きていくことができるはずだ。そう思うと、心が少し軽くなった。

「これからも、この庭を大切にしよう」と日和は決意を新たにした。美しさと自由が共存する場所で、彼女は自分らしく生きていくことを楽しみにしていた。小さな庭は、彼女にとっての心のよりどころであり、幸せを見つけるための実験の場でもあった。

日和は、自分自身を見つめ直すために、この庭を大切に育てていくことを心に決めたのだった。彼女の人生は、まだまだ実験の途中なのだから。






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