干物女を圧縮してみた

孤独の理由

孤独の理由

田中日和が「誰かと過ごさなければいけない」と焦りを感じ始めたのは、大学を卒業して数年が経った頃だった。彼女は都内のアパートで一人暮らしをしていたが、その生活はどこか孤独に満ちていた。

幼い頃から日和は「一人でいること」が自然だった。田舎の静かな家に育ち、両親は共働きで家にいることが少なく、兄弟もいなかった。家に帰っても、出迎えてくれるのは猫だけ。学校から帰ると、両親が帰るまでの数時間を一人で過ごすことが日常だった。

「寂しい」と感じたことは、あまりなかった。むしろ、自分の時間を自由に使えることが嬉しかった。お菓子を食べながら本を読んだり、部屋の隅で静かにお絵描きしたりするのが日和の楽しみだった。

しかし、その「一人の時間」が心地よかったのは、あくまで「選べる余地」があったからだ。大人になるにつれ、選べない孤独が増えていった。

大学に入った日和は、周囲がにぎやかに友情や恋愛を楽しむ中、自分だけが取り残されているように感じ始めた。授業が終われば、友人たちはカフェや飲み会に繰り出すが、日和は誰かに声をかけられることもなく、真っ直ぐ家に帰った。

「誰とも話さなくても平気」と自分に言い聞かせていたが、次第にその思いは空虚さに変わっていった。特に大学卒業後、社会に出てからはその孤独感が一層強まった。友人たちは次々と恋人を見つけ、結婚し、家庭を持っていく。SNSには幸せそうな写真が次々とアップされ、日和のタイムラインを彩った。

「自分も、誰かと一緒にいなければならないんじゃないか？」

そんな考えが、日和の心に徐々に根付いていった。恋人がいない自分はどこか劣っているのではないか、結婚していないことは「遅れている」のではないかと、彼女は次第に自分を責めるようになった。

ある日、昔のクラスメートから結婚式の招待状が届いた。式場の華やかな写真が添えられたその招待状を見て、日和はふと立ち止まった。

「私には、こんな未来があるのだろうか？」

それまでの焦燥感が、一気に押し寄せた。日和は周囲と自分を比べるたびに、自分だけが取り残され、時間の波に流されていくような感覚に苛まれた。

「私も、早く誰かと一緒に過ごさなければならない」

その焦りは、次第に強迫観念へと変わっていった。しかし、同時に日和は、他人と過ごすことの難しさも知っていた。過去に何度か恋愛を経験したが、それはどれも失敗に終わっていた。相手に対してどう接すれば良いのか分からず、距離感をつかむことができなかった。

「私は、誰かと一緒にいる資格なんてないのかもしれない」

自己否定の思いが、さらに彼女を孤独へと追い込んでいく。だが、一方で彼女の中には、強く誰かとつながりたいという願望が根強く残っていた。それが、彼女が「誰かと過ごさなければいけない」と感じる最大の理由だった。

日々の生活の中で、彼女は無意識に理想の「誰か」を探していた。スーパーで隣に並んだ見知らぬ人、通勤電車で偶然目が合った人、どこかでふと会話が弾んだ店員。そんな些細な瞬間にも、彼女は「これが運命の出会いかもしれない」と期待を抱いていた。

しかし、運命の出会いなど一度も訪れず、時間だけが無情に過ぎていく。日和は次第に、理想の未来像が現実離れした幻影のように思えてくる。けれども、焦りの感情だけは薄れることなく、日和を追い詰め続けた。

そんな日々の中、彼女はふと立ち止まり、自分に問いかけるようになった。

「なぜ、私は誰かと一緒にいなければいけないと思うのだろう？」

その問いかけは、彼女の心の中で大きく膨らんでいった。