注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

春秋花壇

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小説

我慢の練習

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我慢の練習

高校二年生の彩香は、いつも何かを探していた。机の上、鞄の中、頭の中…落ち着きなく動き回り、一つのことに集中するのが苦手だった。忘れ物も多く、先生や友達からよく注意される。病院でADD(注意欠陥多動性障害)と診断されたのは、小学三年生の時だった。

彩香にとって、お金の管理は特に苦手なことの一つだった。欲しいものがあると、後先考えずにすぐに買ってしまう。衝動的に行動してしまうADDの特性に加え、注意力が散漫なため、何にいくら使ったのか、把握するのが難しい。

ある日、彩香は母親からお小遣いをもらった。「今月は、この5000円でやりくりしてみてね」

彩香は頷いたものの、内心不安だった。今まで、お小遣いを計画的に使えた試しがない。いつも途中で使い果たしてしまい、後で後悔する。

「今度こそ、ちゃんと使ってみよう」

彩香は、まず何にお金を使うのかをリストアップしてみた。友達と遊びに行くお金、漫画を買うお金、お菓子を買うお金…リストを見ているうちに、あることに気づいた。

「あれ…?遊びに行くお金、結構使ってる…?」

彩香は、今まであまり意識していなかったが、友達と遊びに行く度に、カフェでお茶をしたり、ゲームセンターに行ったりと、意外とお金を使っていた。

「今月は、遊びに行く回数を少し減らしてみようかな…」

彩香は、初めてお金の使い方を意識的にコントロールしようとした。しかし、それは簡単なことではなかった。友達から遊びに誘われると、ついふらふらと出かけてしまう。お店で可愛い雑貨を見つけると、我慢できずに買ってしまう。

何度か失敗を繰り返すうちに、彩香は自分の衝動性や注意散漫さのせいで、計画通りにお金を使えないことに気づいた。

「やっぱり、私には無理なのかな…」

落ち込む彩香に、母親は優しく言った。「彩香、最初から完璧にできる人なんていないわ。大切なのは、諦めずに続けることよ。」

母親の言葉に励まされ、彩香は再び挑戦することにした。今度は、少しやり方を変えてみた。

まず、お小遣いを一日ごとに分けて、小さな袋に入れた。そして、その日の分のお金だけを持ち歩くようにした。こうすることで、手元にあるお金が限られているため、無駄遣いを減らすことができた。

また、欲しいものを見つけた時は、すぐに買わずに、一旦家に帰ってから考えるようにした。こうすることで、衝動買いを防ぐことができた。

さらに、家計簿アプリを使うのをやめ、代わりにノートに手書きで記録するようにした。アプリだと途中で飽きてしまうが、手書きだと、書くこと自体が集中力を養う訓練になった。

少しずつ、彩香はお金をコントロールできるようになっていった。友達と遊びに行く時も、事前に予算を決めて、その範囲内で楽しむようにした。欲しいものがあっても、本当に必要なものかどうかを考えてから買うようになった。

ある日、彩香は友達と映画を見に行くことになった。映画館の売店で、美味しそうなポップコーンを見つけた彩香は、一瞬買おうと思ったが、思いとどまった。

「今日は、映画を見るのが目的だ。ポップコーンは、また今度買えばいい。」

彩香は、自分の変化に気づき、少し誇らしい気持ちになった。

数ヶ月後、彩香は目標金額を貯めることができた。通帳の残高を見た時、彩香は今まで感じたことのない達成感に包まれた。

「私にも、できるんだ…!」

彩香は、お金を貯める練習を通して、お金の使い方だけでなく、自分の特性と向き合い、コントロールする方法を学んだ。それは、単なるお金の管理能力だけでなく、自己管理能力、計画性、そして忍耐力を養うことにも繋がった。

彩香は、貯めたお金で、ずっと欲しかったカメラを買った。そして、そのカメラを持って、色々な場所に写真を撮りに行くようになった。

夕焼けの空、咲き誇る花、友達の笑顔…彩香は、レンズを通して、今まで気づかなかった美しい世界を発見していった。

この経験を通して、彩香はADDという特性を持ちながらも、工夫次第で様々なことができることを学んだ。そして、自分のペースで、一歩ずつ成長していくことの大切さを知った。お金を管理する練習は、彩香にとって、自分自身と向き合い、成長するための大切なステップとなった。

この物語では、ADDの特性を持つ彩香がお金の使い方を学ぶ過程を通して、自己理解を深め、成長していく姿を描きました。お金の管理は、単なる金銭的な問題だけでなく、自己管理能力や計画性など、様々な能力と深く関わっていることを表現しました。
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