注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

小説

闘う彩香の毎日

闘う彩香の毎日

薄暗い部屋の中、彩香（あやか）は目を閉じたまま、布団に埋もれていた。壁にかかる時計の針は、既に午前11時を回っている。周囲の音は遠く感じられ、時折聞こえる家族の声が、まるで別世界からのもののように響いた。彼女は17歳、注意欠陥多動性障害（ADHD）を抱える少女だった。

「また寝ちゃったの？」と母の声がドア越しに聞こえた。彩香は心の中でため息をついた。「どうせ、私には分からないって思っているんだろうな」と。彼女は周囲の人々が自分のことを理解していないことに、いつも苛立ちを感じていた。

最近、彼女は過眠症の症状がひどくなり、昼間のほとんどを寝て過ごしてしまうことが増えていた。医師からは、ADHDとの関連を指摘され、悩む毎日が続いていた。彩香は、眠気と闘いながら学校に通うことが大きな負担となっていた。課題が溜まる一方で、友人との関係も疎遠になっていく。そんな時、彼女は一つの決心をした。自分の心の声を、何とかして伝えたい。

学校では、授業中に集中力を保つことが難しく、何度も周囲の視線を感じていた。クラスメイトの間での自分の位置は、まるで透明人間のように感じることが多かった。しかし、彼女には一人だけ、心の支えとなる友達がいた。ユウキは、彼女の苦しみを理解してくれる数少ない存在だった。

ある日、放課後にユウキが「彩香、ちょっと話そうか」と声をかけてきた。彩香は不安を抱えながらも頷いた。彼女は自分の悩みを打ち明けることができるかどうか、戸惑っていた。

「最近、すごく眠いの。毎日、布団から出るのが本当に大変で」と彩香は少し声を震わせながら言った。ユウキは優しく頷き、彼女の目を真剣に見つめた。「俺も、時々そういうことあるよ。何か、助けられることがあれば言ってね。」

その瞬間、彩香は自分の中で何かがほぐれるのを感じた。彼女は、自分が一人ではないことを実感した。彼女の話に耳を傾けてくれる人がいるという事実が、少しだけ心を軽くしたのだ。

しかし、彩香はまだ自分自身の身体の状態にも悩まされていた。彼女は、消化器の問題にも苦しんでいた。食事を摂るたびに、胃がムカムカしたり、下痢や便秘に悩まされたりすることがあった。医師からは「ストレスが影響しているかもしれない」と言われたが、実際にはどうすることもできなかった。

ある日のこと、学校から帰ると彩香は再び床に倒れ込んだ。友人たちの楽しそうな声が遠くに聞こえてくるが、彼女はその場に留まることができなかった。心の中で叫びたかった。「どうして、普通に生きることができないの？」その思いが胸を締め付け、涙がこぼれた。

ユウキが心配して様子を見に来たとき、彩香は思い切って彼に自分の状態を詳しく説明した。「消化器の問題もあって、寝不足が続くし、毎日が本当に大変なんだ」と彼女は言った。ユウキはしっかりと彼女の手を握り、「それなら、少しずつでも一緒に解決策を見つけていこうよ。俺も一緒に頑張るから。」と励ました。

彩香は、その言葉に勇気をもらった。彼女はユウキと一緒に、自分の症状について調べたり、食事や生活習慣を見直したりすることに決めた。少しずつ、彼女の生活は変わっていった。ユウキとの会話を通じて、彼女は自分の気持ちを少しずつ整理することができるようになった。

もちろん、すべてがうまくいくわけではなかった。時には眠気に負けて授業を欠席したり、消化器の問題で学校に行けなかったりする日もあった。しかし、彩香はそのたびにユウキに支えられ、自分の気持ちを少しずつ伝えていくことができた。

彼女は今、自分の気持ちを言葉にすることの大切さを学んでいた。ADHDや過眠症、消化器の問題を抱えながらも、彩香は自分のペースで一歩ずつ前に進んでいくことを決めた。どんな困難も、一人ではないことを知っているから。ユウキという大切な友達がいるから、彩香は今日もまた、明日への希望を抱いている。

おわり