注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

春秋花壇

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星の下で

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「星の下で」

カフェの片隅、にぎやかな街の中で唯一と言ってもいい静かな場所に、ユウとサキが向かい合って座っていた。二人は友人であり、同じ発達障害を抱える者同士だった。ユウはADHD、サキはASDを抱えていたが、そんなことを感じさせないほど自然に会話をしていた。もっとも、二人だけの「自然」だったかもしれない。

ユウは、カフェのメニューを見つめながら早速話し始めた。「ねえ、サキ、この前ネットで見たんだけど、宇宙の話、聞いた?あ、でもその前に、今日のスムージーおいしそうじゃない?あれ、なんの話だっけ?そうそう、宇宙だよ!宇宙ってさ、めっちゃ広いんだよね!」

一瞬で切り替わる話題に、サキはやや戸惑いつつも、慎重に返事をした。「えっと、うん…宇宙、すごいよね。でも、どの話から始めればいいのか分からないな…。あ、スムージーの話?それとも宇宙?」

「宇宙!」ユウは嬉しそうに手を叩き、続けた。「この前読んだ記事でさ、ブラックホールがどうやって星を飲み込むのかって話があって、なんかさ、ブラックホールって吸い込むだけじゃなくて、なんかエネルギーを放出してるらしいんだよ!すごくない?」

「うん、それは…面白いと思う。でも…具体的にどういう風にエネルギーを放出するのかっていう話は…聞いたことがあるかもしれないけど…」サキは考え込みながらゆっくり言葉を紡いだ。「たしか、物質がブラックホールの周りを回る時にエネルギーを放出してるんだよね。」

ユウは大きくうなずきながらも、早くも次の話題に飛びついていた。「そうそう、それそれ!でもさ、ブラックホールの話もいいけど、今度キャンプ行く予定があるんだ。夜空の星を見に行くのが楽しみでさ!星ってさ、すごくロマンチックだと思わない?」

「えっと、そうだね…星は、確かにロマンチックだよね。だけど、そのキャンプ…の計画は、もう立ててるの?」サキは少し心配そうに尋ねた。サキにとっては、計画がきちんと立っていないと不安になることが多かった。予定通りに物事が進まないと、焦燥感に襲われるからだ。

「うーん、まだあんまり計画はしてないけど、当日に考えれば何とかなるでしょ!」ユウは楽観的に答えたが、サキは内心少し不安だった。ユウのその「なんとかなる」という言葉には、いつも計画のない行き当たりばったりな行動がついてくることが多いのを知っていたからだ。

「それじゃ…何か手伝うことがあれば言ってね。私は計画を立てるのが好きだから。」サキは提案した。

「サキが手伝ってくれるなら百人力だね!」ユウは満面の笑みを浮かべた。「ねえ、それでさ、星といえば、地球以外に生命がいる可能性って本当にあると思う?僕は絶対にいると思うんだよね。だって、宇宙はあんなに広いんだからさ!」

サキは少し考えてから、ゆっくりと答えた。「うん…可能性はあるかもしれない。でも、実際にその生命がどうやって存在しているのかとか、どんな形でいるのかって、今の科学ではまだ分からないんだよね。それに…もし彼らとコンタクトを取ることができたとしても、それが私たちにとって…良いことなのかどうか、難しい問題かも。」

「うん、うん!まさにその通り!」ユウはサキの言葉に感銘を受け、さらに興奮気味に話を続けた。「僕たちが地球外生命体と会える日が来たら、すごいことになると思うよ。考えてみて、文化が全然違う生物とコミュニケーションを取るって、どんなに大変か…あれ?これって僕たちが普段感じてることに似てない?」

ユウの突然の自己開示に、サキは驚いたが、確かにその比喩は彼らの状況に通じているようにも思えた。発達障害を持つ彼らは、しばしば社会との「異文化コミュニケーション」を強いられるように感じていた。相手の言いたいことがすぐに理解できなかったり、自分の考えを的確に伝えるのが難しかったりと、日常の中で「異星人」と会話しているかのような感覚になることがあったのだ。

「そうかもしれないね…」サキは静かに言った。「私たちが感じている難しさって、きっと…他の誰かも同じように感じているのかもしれない。違う星の下で生きる者同士…それでも、いつか理解し合えるかもしれないね。」

その言葉に、ユウは目を輝かせた。「そうだよ!僕たちが異星人とコミュニケーションを取れる日が来たら、その時こそ本当に自分たちのことも理解できるかもしれない。今はまだ難しいことも多いけど、きっといつか、僕たちもお互いをもっと分かり合える日が来るよね!」

二人はしばらく、カフェのテーブルに置かれたカップを見つめながら、静かにその考えに浸っていた。彼らは異なる障害を抱えながらも、お互いを理解し合おうと努力し続けていた。言葉がうまく伝わらない時も、話が脱線する時もあったが、心のどこかでは同じ星空の下で生きる仲間だと感じていた。

その夜、二人はカフェを出て、星空を見上げた。どこまでも広がる宇宙、その中で生きる自分たちの小ささを感じつつも、彼らは確かに繋がっていると思えた。






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