注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

小説

彩香の新たな挑戦 SST

「彩香の新たな挑戦」

17歳の彩香は、注意欠陥多動性障害（ADHD）を抱えた高校生だった。彼女は自分の特性を理解し、社会生活に適応するためにソーシャルスキルトレーニング（SST）に参加することにした。新しい挑戦に対して不安を感じていたが、少しでも自分を変えたいと思っていた。

ある日、SSTのグループに参加するために学校の教室に向かった。参加者は同じような特性を持つ子供たちで、彩香は初めての環境に心を躍らせながらも緊張していた。教室に入ると、優しそうな先生が待っていて、彼女たちを迎え入れてくれた。

「今日は、生活の中でよくある場面をロールプレイしてみましょう」と先生が言った。彩香はその言葉に少し安心した。ロールプレイは、普段の生活での状況を模倣することで、社会的スキルを学ぶ手法だった。

最初のロールプレイは「友達との会話」だった。先生が二人組を作り、ペアでの会話を演じることになった。彩香は、普段の自分を思い返した。「うまく会話ができるかな……」と不安がよぎったが、隣の子が笑顔で声をかけてきた。

「私たち、どんな話をしようか？」とその子が尋ねると、彩香は勇気を振り絞って答えた。「最近の趣味について話そうかな。」会話が始まり、最初はぎこちなかったが、少しずつリズムをつかむことができた。

ロールプレイが進むにつれて、彩香は自分の特性を理解することの大切さを実感した。注意が散漫になりがちな自分を意識しながら、会話を続けることに集中した。相手の話を最後まで聞くことや、相手の目を見ることを意識していた。

次のロールプレイは「仕事の分担」だった。参加者全員が円になって立ち、どの仕事を誰が担当するかを決めるシーンだった。彩香は少し戸惑った。普段は、周りの人が決めたことに従うだけだったが、今回は自分の意見を言わなければならなかった。

「私、掃除係をやりたいです」と勇気を出して言った。すると、周りの子たちがそれに対して応えてくれた。「いいね！じゃあ、私は運ぶ係をやるよ！」その瞬間、彩香は少し自信を持てた。自分の意見が受け入れられたことが嬉しかったのだ。

ロールプレイが終わった後、先生がフィードバックを行った。「彩香さん、素晴らしい発言でした！自分の意見を言えるのはとても大事なことです」と褒めてくれた。彩香は、心の中に暖かい気持ちが広がっていくのを感じた。自分が成長できている実感があった。

次のセッションでは、より難しい場面のロールプレイが待っていた。「集団の中での意見の対立」だった。彩香は、その場面に向けてドキドキした。意見が対立した場合、どう対応すればよいのかを学ぶ必要があった。

グループが議論を始めると、意見が衝突する瞬間が訪れた。彩香は、自分の意見を主張したい気持ちが芽生えたが、同時に怖さも感じた。しかし、参加者の一人が「私たちは皆、意見を尊重し合おう！」と呼びかけると、彩香もその気持ちに共感した。

「それぞれの考えが大切なんだ」と、彩香は内心で思った。そして、彼女も自分の意見を述べることができた。「私はこう思うんですが、みんなはどう思いますか？」と発言したことで、場が少し和んだように感じた。

セッションが進むにつれ、彩香は他の参加者との信頼関係を築いていった。ロールプレイを通じて、彼女は自分自身をより理解し、少しずつ社交的なスキルを学んでいた。時には失敗することもあったが、その度に周りの仲間が励ましてくれた。

ある日のセッションで、参加者全員が集まって「お互いの強みを認め合う」ワークショップを行った。彩香は、自分の特性を受け入れることができるようになり、他の人の良さも見つけることができるようになっていた。「あなたはいつも明るくて楽しいよ」と、仲間の一人が彩香に声をかけてくれた。

その瞬間、彩香の心が温かくなった。彼女は、自分が他の人に影響を与えることができると実感した。自分を受け入れ、他の人と協力し合うことができるようになったことに感謝し、これからの未来に期待を抱いた。

SSTのセッションを終える頃、彩香は一つのことに気づいた。「自分を変えることは、決して簡単なことではない。でも、少しずつできることが増えていくんだ」と。これからも挑戦を続け、自分を成長させていく決意を胸に抱いていた。彩香は、自分の特性を大切にしながら、より良い未来を目指して歩みを進めていくのであった。