注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

春秋花壇

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小説

欠点だらけの彩香

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欠点だらけの彩香

彩香は17歳。自分が注意欠陥多動性障害(ADHD)であることを理解しながら、日々の生活に奮闘している。彼女の頭の中は、思考が次から次へと流れ込んでくるアイデアや感情で溢れていた。時には友達との会話の中で、急に話題を変えてしまったり、授業中に注意が散漫になったりすることもあった。周囲の人々には、そんな彼女の欠点を指摘されることが多かったが、彩香は自分の中に隠れた素晴らしい部分を見つけ出したいと願っていた。

「またやっちゃった…」放課後、教室を出ると、友達の美咲が優しく声をかけてくれた。「大丈夫、彩香の話は面白いから、みんな好きだよ。」

美咲は彩香にとっての唯一の理解者だった。彼女は、彩香が時々話が飛躍してしまうことや、集中力が持続しないことを、全く気にしない。むしろ、そのおかげで彩香の発想はユニークで、周囲の人々を楽しませていた。

「本当に? 私の話、そんなに面白い?」彩香は少し照れくさくなりながら尋ねた。

「うん、彩香の独特な視点は最高だよ。普通のことでも、彩香が話すと新鮮に聞こえる。」美咲は微笑んで頷いた。

帰り道、彩香は自分の心の中にある不安と向き合った。時々、彼女は自分が周りに迷惑をかけているのではないかと心配になった。しかし、美咲の言葉が心に響いた。「欠点だらけ」と思っている自分の中には、必ず「いいところ」もあるのだ。

その日の夕方、彩香は自分の趣味である絵を描くことに没頭した。彼女の手は、自由に動き回り、心の中の感情をキャンバスに表現する。色とりどりの絵の具が混ざり合い、彼女の個性が形になっていく。ADHDによる奔放な思考は、彼女のアートにも反映され、他にはない独特な作品が生まれていた。

「これ、私が描いたの!」翌日、彩香は学校で自分の作品を友達に見せた。クラスメイトたちは興味津々で作品を眺めていた。

「わあ、すごい! これ、どこからインスピレーションを得たの?」と男子が尋ねる。

「なんとなく、思いついたの。自由に描いてみたら、こんな感じになった!」彩香は嬉しそうに答えた。

その反応に彩香は心が躍った。彼女の創造力は、時にはADHDの特性によって促進されることもある。心の中の混沌が、鮮やかな形を成していく瞬間が、彼女には特別な喜びだった。

放課後、アートクラブに参加することにした彩香。そこで彼女は、同じようにアートを愛する仲間たちと出会った。クラブでは、自由な発想が尊重され、誰もが自分のスタイルを大切にする環境が整っていた。彼女はすぐに溶け込むことができ、仲間たちと共に絵を描く楽しさを共有することができた。

ある日、クラブの発表会で、自分の作品を展示することになった。彩香は緊張したが、仲間たちが支えてくれるおかげで、自信を持って自分のアートを紹介することができた。「これは私の心の中を表現したものです。ADHDによって、頭の中は常に色んなことが渦巻いているけど、それが私の作品に良い影響を与えていると思っています。」

その言葉に、観客たちは感心し、拍手が起こった。彩香はその瞬間、心の中で何かが変わったのを感じた。彼女は欠点だらけではなく、様々な可能性を持つ個性豊かな存在だと認識することができた。

日が経つにつれ、彩香は自分の特性を受け入れ、周囲との関係も良好になっていった。美咲やアート仲間たちと過ごす時間は、彼女にとって大切な宝物となり、愛情と理解が広がる中で成長していくのを感じた。

「欠点だらけだけど、私は私らしく、いいところだっていっぱいある!」彩香は微笑みながら、自分自身を大切に思うようになった。彼女の心には、新たな希望が芽生え、未来への期待が膨らんでいくのだった。

これからも、彩香は自分の特性を大切にしながら、独自の道を歩んでいくことを決意した。どんな困難があっても、彼女は自分の道を信じ、愛する人々と共に歩んでいく。






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