私の婚約者様は王女殿下の騎士をしている

エピローグ: ざまぁ

エピローグ: ざまぁ

王国の広間は、すっかり静まり返っていた。煌びやかなシャンデリアの下、貴族たちのざわめきも次第に収まり、ひとしきりの宴が終わりを告げようとしていた。しかし、そこにはかつての栄華を誇った者たちの姿はもうなかった。

「おめでとうございます、リリィ様。」

アランが微笑みながらリリィに言った。その表情にはどこか安堵と、少しだけ物憂げな陰りが漂っている。数年前、リリィがまだ婚約者として名を連ねていた頃には考えられなかった光景だった。

「ありがとうございます。」リリィは目を細めて答え、ゆっくりと隣の席に座った。

数ヶ月前までは、リリィは王女殿下の婚約者として、あの冷徹で神秘的な王女に一途な愛を捧げていたアランの姿を見て、自分の心が痛むのを感じていた。王女殿下の冷徹さ、そしてアランへの献身的な忠誠心が、彼女を遠ざけていた。しかし、今日、ついにそのすべてがひっくり返ったのだ。

あの高慢で冷酷だった王女殿下が、王国を追われることになったのだ。

「どうしてこんなことが？」かつての王女殿下の忠実な侍女が、涙ながらにリリィに言った。「あの方は、全てを失ってしまったのに…」

リリィは無言でその侍女を見つめた。彼女の言葉が、どれだけ空虚であるかは十分に理解していたからだ。

「ざまぁね。」リリィは心の中で呟く。かつての王女殿下がどれほど苦しんでいたか、リリィには想像もできなかった。だが、王女殿下が自分の未来を何よりも優先し、アランを自分のものとして握りしめていたことが、すべてを終わらせたのだ。忠誠心に基づく愛ではなく、政治的な意味合いで彼女を支持し続けたアランに、ついにその裏切りを突きつける時が来た。

リリィの胸に広がる感情は、勝利の喜びでも、逆転劇の興奮でもなかった。むしろ、冷徹にそのすべてを見守ったという満足感と、どこか満たされたような安堵感だった。

「婚約者として、あなたを選んでよかった。」アランの言葉が、リリィの心に響いた。

王女殿下が王国から追放され、代わりにリリィが王国の名誉を背負うことになった。王女殿下が抱えていた権力や名声、それに裏打ちされた自信は、リリィにとっては何の意味もなかった。王国の民が求めていたのは、まさにリリィのような人物だったのだ。忠誠心の強いアランとの結婚は、彼女にとっても王国にとっても最良の選択だった。

そして、今、王女殿下はただの一人の失われた女性にすぎない。かつては自分を守ってくれる存在として君臨していたが、結局はすべてを失った。

「ざまぁ、ですね。」リリィは心の中でほくそ笑んだ。

彼女は決してその意地悪な笑みを外に見せることはなかった。しかし、その表情を見抜く者がいれば、リリィの心の中に秘められた深い憤りが、すべてを裏切る者たちへの冷徹な報復の姿勢であることを知っていたに違いない。

王女殿下は、無力だった。リリィの心の中では、ただの貴族としての地位を持っていた王女が、愛と忠誠心の間で振り回される姿がすでに滑稽に見えていた。それでも、最終的にアランの心が彼女に帰ってきたことは、リリィにとって、いわば必然だったのだ。

「さぁ、これからは私たちの時代です。」アランが真剣な表情で言った。

「そうですね。」リリィは微笑んだ。

王女殿下のような冷徹で高慢な存在がいくら権力を持っていても、最終的には何も残らない。愛情や信頼を勝ち取ることこそが、すべてだということを、リリィはついに理解した。

「今、私たちが築く未来には、王女殿下のような存在はもう必要ない。」リリィは静かに思った。

その晩、王国の宴は終わり、静けさが訪れた。リリィとアランの未来には希望があり、今後の王国を導く道はすでに拓かれていた。かつての王女殿下の姿は、過去の栄光と共に消え去り、リリィがその座に座ることとなった。

「私たちが未来を築くんだ。」リリィは心の中で、確信を持って呟いた。