私の婚約者様は王女殿下の騎士をしている

王女と騎士、そして私の心

「王女と騎士、そして私の心」

アランと私は、何年も前に婚約を交わした。しかし、実際のところ、私たちの関係はあまり進展していなかった。アランは王女殿下、エリサと共に過ごす時間がほとんどで、私たちの時間は限られていた。王女殿下に仕える彼の姿は、忠誠心に満ち溢れていて、その姿勢は誰にも疑いようがなかった。しかし、その忠誠が私にはどうしても重く感じられ、心のどこかで彼とエリサの関係を気にせずにはいられなかった。

王女エリサは、美しいだけでなく、強い意志を持つ女性だった。王国を治めるために数々の試練を乗り越えてきた彼女は、誰もが認める強さを持っている。しかし、その強さとは裏腹に、王女は非常に繊細で、病弱でもあった。彼女が王国の未来を担うためには、誰かの力が必要だと、私は理解している。しかし、私の心は、エリサとアランの関係に次第に影響を受けていた。

アランはいつも王女殿下の近くにいる。彼女が出席する儀式、宴、そして時には王宮の私室にも、彼の姿は欠かさない。エリサとアランは、まるでお互いに自然に寄り添うようにして共に時間を過ごしているのだ。それが何の疑念も持たずに見守れるものなら良かったのだが、私にはそうすることができなかった。

ある日の午後、私は王宮で行われた舞踏会に招待されていた。いつものように、アランは私の隣に立つことなく、エリサの隣に歩み寄っていた。二人の関係がどこか特別であることを感じずにはいられなかった。アランの目には、王女への深い敬意と愛情が込められているように見え、私の胸は痛んだ。エリサもまた、彼を頼りにし、彼の忠誠を大切にしているように感じた。

「どうしたの？」隣に座っていた友人、セリーナが声をかけてきた。「少し元気がないように見えるけれど…」

私は苦笑を浮かべ、彼女に答えた。「いや、ただ…ちょっと考え事をしていただけよ。」

セリーナはそのまま黙って私を見つめていた。彼女は気づいていたのだろう、私の心の中で何かが揺れていることを。

「アランとエリサ、どうしても気になるの？」セリーナが静かに言った。

その一言が私の胸を締め付けた。私は彼女の問いに答えることができず、ただ頷いた。もちろん、私もアランが王女に仕える騎士であることは理解している。だが、どうしても彼と王女殿下の絆が深まるたびに、私の心は不安と嫉妬で満たされていった。

その夜、舞踏会が終わった後、私は一人王宮の庭に足を運んだ。冷たい風が頬を撫でる中、私はアランを探して歩き続けた。彼の姿が見当たらなかったが、ようやく見つけた時、彼は王女殿下と二人きりで静かに話していた。その時、王女の手がアランの腕に触れる瞬間を目撃した。二人の間には、言葉では言い表せないような深い絆が感じられた。

私はその場からそっと離れた。胸が締めつけられるように苦しく、足元がふらつくような感覚に襲われた。自分でもわからないくらい、私はアランと王女の関係に対して、どうしてこんなにも心がざわつくのだろう。

「どうしてこんな気持ちになるんだろう…」私は小さな声で呟いた。

その夜、寝室で一人、私は思い悩んだ。アランは私にとって、最も大切な存在だった。けれど、王女殿下の近くにいる彼の姿を見ていると、私には到底勝ち目がないように思えた。エリサは王国の未来を担う存在で、アランはその守護者としての役目を果たしている。しかし、それにどれほど尽力しても、私の心には空虚さが残るばかりだった。

翌日、私はアランと話す機会を作ろうと決心した。私の心に溜まっている不安や嫉妬を、彼に伝えなければならないと思った。

「アラン、少し話せる？」私は彼に近づき、静かに声をかけた。

彼は私を見つめ、そして静かに頷いた。「どうした、シェリル？」

「あなたが王女殿下と一緒にいるとき、私はどうしても不安になるの。」私の言葉は、まるで抑えきれない感情が溢れ出すように口にした。

アランはしばらく黙って私を見つめていた。その目には何も言わずとも、私の不安を察したような優しさが込められていた。

「シェリル、君が不安に思うのはわかる。でも、王女殿下と僕の関係は、君と僕の関係とは別だ。君を大切に思っている。これからもずっと。」

その言葉を聞いて、私は少しだけ心が軽くなった。しかし、私の不安が完全に消えることはなかった。アランと王女殿下の間に流れる深い絆が、私の中で一層の不安を呼び起こしていた。

彼の言葉を信じるしかなかった。私とアランの未来は、決して他の誰かには左右されることなく、二人だけのものだと信じて。