かまってちゃんをなおすには

言葉の余韻

「言葉の余韻」

村田京子は、周りから見ると常に明るく、元気な女性だった。職場ではいつもにこやかに仕事をこなし、誰とでもすぐに打ち解けることができる。しかし、その裏に隠された京子の心は、いつも繊細で傷つきやすかった。

特に人からの指摘に対して、京子は敏感だった。表面的には何でもないように見えるが、実際はその言葉が心に刺さり、長い間その余韻を引きずることが多かった。

その日も、職場のミーティングで一言、上司から指摘を受けた。

「京子さん、ここをもう少し丁寧にチェックしておくといいですね。」

普段なら気にしないような些細な指摘だったが、京子にはその言葉が響いてしまった。自分が何か間違ったことをしたわけではない。ただ、少しの注意を受けただけなのに、その言葉が心に重くのしかかり、次第に気持ちが沈んでいった。

ミーティングが終わった後も、京子はその言葉が頭の中で何度も繰り返されるのを感じていた。上司が言いたかったことはきっと本当に些細なことだったのだろう。でも、京子は自分がもっとしっかりしなければならないと思い込んでいた。それが、自分に対して厳しすぎるプレッシャーをかける原因となっていた。

その日一日、京子は何も手に付かないような状態で過ごしていた。朝から夜まで仕事をしていたが、集中力が続かず、心はどこかに漂っているような気分だった。ミスを犯したわけではないのに、何もかもがうまくいかない気がしてならなかった。

そして、家に帰ると、鏡の前で自分を見つめた。

「私は、どうしてこんなにダメなんだろう。」

口からその言葉が自然に出てしまった。心の中で何度もその言葉を繰り返していた。上司からの一言が、京子にとっては自分が全てを間違えているかのような感覚を引き起こしていた。

その晩、京子は布団に入っても眠れなかった。目を閉じると、上司の言葉が何度も頭の中に浮かび、そのたびに胸が痛んだ。なぜ、自分はこんなに指摘を恐れ、傷ついてしまうのだろうか。どうして、人からの言葉にこんなに依存してしまうのだろう。

翌朝、京子は目を覚まし、まだその日のことを引きずっていた。心が重く、顔を洗うのも億劫に感じた。いつもならさっと起きて、仕事に行く準備をしていたのに、今日は何もかもが面倒くさく感じてしまった。

「今日は休むべきかもしれない…」

京子はそう思いながらも、結局は仕事に行くことを決めた。社交的で明るい自分を演じなければならないというプレッシャーがあったからだ。もしも休んでしまったら、周囲にどう思われるだろうと、また自分を責めてしまう気がしていた。

職場に着くと、同僚の高橋が声をかけてきた。

「おはよう、京子ちゃん。今日は元気そうだね。」

京子は笑顔を作りながら返事をした。

「おはよう、元気だよ。」

でも心の中では、昨日の指摘がどうしても引っかかっていた。高橋の言葉に対しても、どうして自分はこんなにも疲れ切っているのか、焦燥感が募った。普段なら自然に笑顔で返せるのに、今日はその笑顔が本物ではないように感じた。

午後になり、再び上司が近くを通りかかった。京子は少し緊張して、目をそらした。すると上司が突然声をかけてきた。

「京子さん、ちょっといい？」

その言葉に、京子はドキッとした。自分のやっている仕事に何か問題があるのだろうかと、不安が一気に膨らんだ。しかし、上司の表情は穏やかだった。

「さっきのミーティングで言ったこと、そんなに気にしなくていいからね。」

京子は思わず目を見開いた。

「え？」

「もちろん、注意するのは仕事にとって大事なことだけど、君が今までやってきたことは十分に良い仕事だよ。ただ、少しだけ改善すればもっと良くなるという話だったんだ。」

京子はその言葉に、驚きと共にほっとした。自分の心が、少しだけ軽くなった気がした。しかし、それと同時に、心の奥では不安が再び湧き上がった。

「でも、どうして私はあんなに傷ついてしまったんだろう？」

その問いに、答えはすぐには見つからなかった。しかし、少しずつ京子は自分に対してもっと優しくなれることに気づき始めた。人からの指摘に過剰に反応してしまう自分を受け入れ、その上で、どうすればもっと自分に優しくできるかを考えるようになった。

京子は、これからも傷つくことはあるだろう。でも、少なくとも今はその傷を癒す方法を少しずつ学んでいくことができる気がした。それは、指摘を受けても自分を過度に責めず、少しずつ強くなるための第一歩だった。