エホバは全ての人に悔い改めてほしいと思っている

愛と赦し — ホセアとゴメルの物語

愛と赦し — ホセアとゴメルの物語

薄明かりの中、ホセアは家の中で一人静かに祈っていた。彼の心は、愛する妻ゴメルの不貞によって引き裂かれていた。彼女は何度も彼を裏切り、別の男の元へと去ってしまった。人々は口々に「もう彼女には望みはない」と言い、ホセアに離れるよう勧めた。しかし、ホセアの心の中にはエホバから与えられた言葉が響いていた。

「別の男に愛され、姦淫をしているその女を、もう一度愛しなさい」。エホバの命令は、ホセアの心を揺さぶった。彼の信仰と愛が試される瞬間だった。ゴメルは裏切りの象徴となり、彼女に対する憤りや失望が渦巻いていた。しかし、エホバが示した愛と赦しの模範は、彼に大きな決断を促していた。ゴメルは過ちを犯し続けていたが、エホバはその心の深淵を見抜き、救済の手を差し伸べ続けた。

ホセアは決心した。夜明け前の冷たい空気の中、彼は静かに家を出た。向かう先は、ゴメルが今いる場所。彼女がいると知らされているあばら家が立ち並ぶ荒れ果てた地区だ。街の片隅で、彼女は自分を捨てた者たちに利用され、心も体もすり減らされていた。ホセアの胸には、かつての彼女の輝かしい姿が残っていたが、今やその面影はほとんどなかった。

ゴメルを見つけた時、彼女はぼろぼろの衣服をまとい、打ちひしがれていた。その目には希望の光が消え、過去の栄光や愛は何処にも見当たらなかった。ホセアは一瞬、言葉を失った。しかし、エホバの声が彼の心に再び響く。「ほかの神々に頼っているイスラエルの民を、エホバは同じように愛する」。

ホセアは彼女の前に立ち、優しく手を差し出した。「戻ってきてほしい、ゴメル。共に家に帰ろう」と彼は言った。その言葉にゴメルは驚き、目を大きく見開いた。彼女は自分がどれほど罪深い存在であるかを知っていた。ホセアの愛に対して、自分が値しないことも理解していた。しかし、彼女の心の奥底で、わずかに残っていた希望の火が、ホセアの言葉で再び灯った。

「なぜ、私なんかを？」ゴメルは震える声で問いかけた。彼女の瞳には涙が溢れていた。「私はあなたを裏切り、何度も背を向けた……もう赦されるべきではないのに」。

ホセアは静かに答えた。「エホバは、罪を犯した者が悔い改めて戻ることを、何よりも望んでいる。私も同じだ。君が戻ることをずっと待っていた。エホバは私たちを見捨てないように、私も君を見捨てはしない」。

その言葉を聞いた瞬間、ゴメルは崩れ落ち、彼の足元に泣き崩れた。彼女の心に長い間張り付いていた重荷が、少しずつ解かれていくようだった。ホセアは彼女を優しく抱きしめ、彼女が全てを背負っていた痛みと苦しみを感じ取った。

その日、二人は共に家に帰った。かつての愛が完全に回復したわけではない。しかし、エホバの導きによって、ホセアはゴメルと再び向き合い、新たな始まりを歩み始めた。彼らの物語は、エホバの無条件の愛と赦しの象徴として、イスラエルの民に伝えられることとなった。

この出来事を通じて、エホバはご自身の民に重要なことを教えた。それは、どんなに罪深い過去を持つ者でも、心から悔い改めれば赦しの道が開かれているということだ。イスラエルの民もまた、ゴメルのように何度もエホバを裏切り、偶像崇拝に走ってしまっていた。しかし、エホバは決して彼らを見捨てることはなかった。悔い改めの手を差し伸べ、再び正しい道へと導こうとしていたのだ。

エホバの愛は無限であり、その愛はホセアとゴメルの実例によって、深く象徴された。民はエホバの愛に応えるために、自分たちの罪を認め、悔い改める必要があった。エホバが決して見捨てないという約束は、ホセアの妻を赦し愛したように、民がどんなに遠くに離れていても、エホバが再び受け入れてくださるという希望を与えた。

物語の最後に、ホセアとゴメルは共に新たな生活を始め、彼らの関係は徐々に回復していった。それは、エホバとイスラエルの民との関係にも似ている。悔い改めを通じて、失われた愛が再び結びつき、新たな希望と赦しの道が開かれるのだ。