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僕はもふもふのジュリアーノ ネグレクト

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「お兄ちゃん、おなかすいたー」

「お弁当買いに行こうか」

「うん、お兄ちゃん、ママ帰ってこないね、パパもいないね」

「いいこにしてたら、きっと帰って来るヨ」

「わかった。いい子にしてるね」

僕はもふもふのジュリアーノ。マルチーズ。

昔、ママに飼われていたの。

今は、お空のお星さま。

ママを守るためにここにいる。

はずが、ママは今はここにいない。

パパさんもここにはいない。

二人とも別々に出ていっちゃった。

そして、二人は離婚したの。

どんなに問題が起こっても、

あの二人は夫婦で相談することはなかった。

ただの同居人。

ママはその時、初めて自分の父親の偉大さが解ったの。

ママの父親は、どんな問題が子供に起こっても、

母を連れて一緒に話し合って解決しようとしてた。

夫婦って努力しなくても、そうできるものなんだと思い込んでいたの。

そして、ママがパパさんを一番許せなかったのは、

少年をマグカップで殴ったこと。

それ対して、話し合いも詫びることもなかった。

それ以来、ママはパパさんと口をきかなくなった。

ステップファミリーだからなのかな。

違うね、パパさんが子育てに口を出さなかったのは、

なんか違う気がする。

だって、お嬢ちゃんの入学の時でさえ、関与しなかったのだから。

そんなことは今はどうでもいいの。

お金もそろそろつきそうになっている。

二人は、学校にも行かず、一日中、好き放題していた。

途方に暮れていたのかもしれない。

妹の面倒を見なきゃいけないから、

前のようにお酒や薬を乱用することはなかったんだけど。

役割錯誤だよね。

少年とお嬢ちゃんは、ここで底をついたのかもしれない。

ネグレクトされて、何もできない自分たち。

ご飯を炊くことは教わっているはずなのに、

魚だって三枚におろせるのに、

魚を買ってくることもしなかった。

とにかく今は、ママが帰ってくるまで、

死にたいとか思わないように、

朝から晩までなんとか時間が過ぎるのを待っていた。

ママはね、記憶がなくなって、川崎のほうのリハビリの施設に通っていたみたい。

そして、少年と一緒にいることを反対されていたみたい。

自助グループのメンバーたちから。

一つの大きな賭けだったんだと思うんだ。

一緒にいて、無理心中するより、

離れ離れで無謀だけど距離を置く。

一人にすると、少年が自殺する恐れがあるから、

お嬢ちゃんをあえておいていった。

そんな感じなのかな。

みんながこの状況をどうクリアーすればいいのか、

解らなかったんだと思う。

毎日、確認の電話はあったんだ。

「お金はまだあるの?」

「二人とも元気なの?」

少したって、ママは戻ってきたんだ。

そして、働きに行き始めた。

パーティールームの受付。

ママは、パパさんから、

お仕事をすることを止められていたから、

仕事に行くことになれるまで金額や時間よりも

一月でもちゃんと続けられる実績が欲しかったみたい。

二か月くらい続いたのかな。

そのお店が、オーナーの意向で

フィリピンパブらになるということで辞めたんだ。

そして、入社したのが、保険会社。

ママは見違えようにきらきらして、

働いていたよ。

成績もよくて、いつも旅行に会社の招待で行っていた。

少年も中学校を卒業したから、

派遣の仕事に就いたんだ。

引っ越しや倉庫やイベント設営のお仕事。

その日によっていろいろ変わるんだけど、

お金がもらえるのがとても嬉しかった。

こうして、三人の生活は続いていく。

少年は時たま、思い出すんだ。

あの、嵐のような日は何だったんだろう。

主治医は、統合失調症の症状だと言っていたけど、

みんなが自分を見ているような恐怖。

そして、自分なんか生まれてくるんじゃなかった

という無価値な気持ち。

いじめられて、学校に行けなくなって、

社会からはじかれていく。

それでも、いつか、生きててよかったと思える日が来るよね。

きっと来るよね。

その日を楽しみに今も生きている。


読んでくださって有難うございました。

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