上 下
85 / 86
第二部

子供部屋おばさん17年

しおりを挟む
子供部屋おばさん17年

小林真理は41歳。17年間、実家の子供部屋で母親と二人三脚のように生活してきた。周囲が結婚や出産の話で賑わう中、彼女の人生は静かに進んでいた。母親が亡くなった後、彼女は家を引き継ぎ、大きな家に一人暮らしを始めた。社会人生活も長いが、独り身のまま過ごす日々は彼女にとって新しい冒険だった。

ある日の午後、真理は冷蔵庫の中を見ていた。何か食べたいと思いながらも、冷蔵庫の中はもはや寂しい様相を呈していた。買い物に行くのも面倒くさい。そんな時、目に入ったのはサツマイモ。先日、実家から送られてきたものだ。おばあちゃんが育てたこのサツマイモ、真理にとっては懐かしい味だった。

「これ、レンチンしたら美味しいんじゃないかな」

思いついた真理は、サツマイモを洗ってレンジに入れた。500ワットで7分。待つ間、彼女は部屋の片付けを始めた。散らかり放題の部屋は、母親の思い出が詰まっていた。棚にはおばあちゃんが作った手作りの品々が並び、壁には子供の頃の写真が飾られている。懐かしさと同時に、今の自分の状況を実感してしまった。

「やっぱり、私の人生、ここで終わっちゃうのかな」

ぼんやりとした思考の中、レンジのタイマーが鳴った。サツマイモを取り出すと、期待していた甘い香りが広がった。しかし、一口食べてみると、口の中に広がったのは、思いもよらぬ味。レンジで温めたはずのサツマイモは、まるで干いもみたいに固くなっていた。

「これじゃ、干いもじゃん…」

真理は失望し、笑いがこみ上げてきた。これが私の料理レベルか、と自嘲気味に思いながら、サツマイモを眺めた。何を期待していたのか。彼女は無性に腹が立った。これも、私の人生の一部なんだろうか、と。

その時、真理のスマートフォンが鳴った。友人からのメッセージだった。「今夜、みんなでバーベキューやるよ!来ない?」彼女は一瞬、行くべきかどうか迷った。人と一緒にいるのも楽しいけれど、疲れることも多い。

でも、彼女の中で何かがはじけた。サツマイモを干いもにしてしまった自分を少しだけ受け入れ、笑い飛ばそうと思った。気分転換に出かけるのも悪くない。自分の人生をもっと楽しむために。

「行こう!」

そう決めて、真理は外に出る準備を始めた。服を選び、髪を整えながら、彼女は小さく微笑んだ。周りの目を気にしすぎず、自分を大切にすることを学び始めたのかもしれない。サツマイモが干いもになったのは、人生の小さなハプニングだ。

バーベキューの会場に着くと、友人たちが楽しそうに焼き肉をしていた。賑やかな声が彼女の心を解きほぐす。しばらくして、彼女は仲間に加わった。友人たちと笑い合い、時には思い出を語り合い、彼女の心の奥にある孤独が少しずつ薄れていくのを感じた。

日が沈むにつれて、空はオレンジ色に染まった。友人たちの笑い声が響く中、真理はサツマイモのことを思い出した。「今度はちゃんと料理しよう」と心に決めた。小さな一歩だが、彼女の人生を変えるきっかけになるかもしれない。

夜が更ける頃、真理は心からの笑顔を浮かべた。彼女は確信した。これからの人生は、自分の手で作り上げるものだということを。自分自身を大切にしながら、少しずつ新しいことに挑戦していこうと。サツマイモが干いもになったことも、真理の人生の一部。自分を受け入れ、楽しむことが一番大切だと思った。

明日、また新しい挑戦が待っている。真理はそう思いながら、星空を見上げた。人生は、まだまだこれからだ。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

かあさんのつぶやき

春秋花壇
現代文学
あんなに美しかった母さんが年を取っていく。要介護一歩手前。そんなかあさんを息子は時にお世話し、時に距離を取る。ヤマアラシのジレンマを意識しながら。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

春秋花壇
現代文学
注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

処理中です...