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68 がくがくぶるぶる

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「寒い~」

夜中に目覚めた。

厚手のタオルケットとマイヤー毛布。

しっかりくるまってるのに、寒い。

まだ10月の終わりだというのに、秋霖のせいだろうか。

背中に氷でも入れられたように、背筋がぞくぞくする。

真理は、押し入れから圧縮袋に入った羽根布団を取り出した。

「本当は、お日様に干してほわほわにして使いたいのにな~」

膨らませて叩いて、赤毛のアンのように布団を広げる。

「アンもこんな感じだったのかな~」

母は、末期がんだったのに渾身の力を込めてこの布団をクリーニングに出してくれたのだろう。

母が身罷ってから一カ月くらいして、クリーニング屋さんから電話を頂きとりに行った。

「人間て、生きてるだけでほんとに大変」

ゴミは出るし、汚すし……。

トイレだって、使用するたびに掃除してる。

ウォシュレットじゃないから余計なんだけどね。

そう、トイレの水漏れと床を張り替えてもらう時に便器も新しいものに取り換えてもらうのだ。

そしたら、上手に拭けない時もわざわざお風呂場に行って、

シャワーしなくても済むもの。

真理は最近、発達障害のせいなのか、いきなり神経過敏になって

お風呂場の壁のタイルの目地だけでなく、

床の小さめのタイルの足の裏の感覚に悩まされていた。

「ぬめっ」とした感覚がとってもいやなのだ。

毎日、軽くこすってるんだからそんなに汚れているわけでもないだろうに。

洗顔も上手に顔を洗えず、床をびしょびしょにしてしまったりする。

その度に雑巾で拭くのがとっても面倒。

「ろくなことしない…」

吐き捨てるようにいつもぼやくんだけど、

その言葉はそのまま自分に返ってくる。

インナーワードを意識して、ネガティブな言葉をできるだけ使わない様にしても

習慣なのか、陰キャなのか理由はわからないけれど

毎日、一つ一つ数えれば何千も自分を貶めるような言葉を

心の中でアウトプットしてる。

「あううう」

「どうせ……」

「めんどくさい……」

できるだけこれらの言葉は使わない様にしてるんだけどな~。

そんなことはさておき、寒い。

がくがくぞくぞくぶるぶる。

目が天井にくぎ付けになる。

木目の不規則な模様が細長い丸や数字の6に見えて、

目だけ出してあおむけになってる真理を嘲笑っている。

しばらく、布団の中にいたのだが震えはひどくなるばかり。

「だめだ、こりゃ」

ガウンを羽織り、電気敷毛布を出してセットした。

台所に行き、しょうがをすってちんちんに沸かしたお湯を注ぎ、

蜂蜜をたっぷりといれる。

スプーンでくるくるとかきまわして、鮮やかな生姜の香りを

思い切り鼻から吸い込んだ。

つつーーと、鼻水が出て、あわててティッシュを押さえる。

マグカップを両手で包みこもうとするが、

熱くて触れている事も出来ない。

ふーふーしながら、口に入れるとからい。

そして、なぜか苦い。

「たっぷりと生姜を入れたから、辛いのはわかるけど……」

にがいのはどうして?

そのとたん、こほこほと咳き込んでしまう。

のどが熱い。

喉が痛い。

「あああああああ」

と、声を出してみるが鼻声。

「風邪ひいたのかな?」

富山の置き薬の箱から、葛根湯を出して飲む。

いつもなら、それほど嫌な味じゃないのに、

むしろ好きな味の部類なのに、苦くてまずい。

鼻水も止まらない。

背中の悪寒はさっきよりはまし。

薬箱から体温計を出して計ると、37.8℃。

「これから上がるのかな?」

加湿器をセットして、エアコンを23度に設定。

靴下を履いて、ババシャツを着て、万全な風邪対策。

「風邪でも新型感染症でもインフルエンザでもわたしは負けない」

枕元に、ノートパソコンを置いて亀の子のように布団をかぶって、

ネット検索。

モーリス・ラヴェルをチョイスし、元気を補充。

「いざ、いざ、出陣!!」
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