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62 実践お金の勉強

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「そうか、真理ちゃんにも春が来たのか…」

練馬に住むおじさんから電話があり、食事に誘われたんだけど

手短に現状を報告し、辞退した。

嘘をつかないで、相席屋に友達に誘われて行ったことが言えてよかった。

「真理ちゃん、お金の勉強をすると言っていたけど進んでる?」

と、聴かれ

「ライフプランナーとしての基礎位でしょうか?」

と、答えると

「真理ちゃん、詐欺については勉強した?」

と、からかうように聞かれた。

「いいえ、まったく」

「真理ちゃんは今、1億以上の資産があるんだよ。

世の中には、良い人も沢山いるけど、悪い人も沢山いる。

まして、苦労もしないで親の遺産と聞けばおもしろくないと感じる人も沢山いるだろう」

「そうですね。新型感染症が流行っていますし」

「相続税や固定資産税はおじさんが紹介した税理士さんたちに相談すれば、

それほど失敗しなくて済むけど、真理ちゃんの個人的な付き合いに関しては

真理ちゃんが自分で学んでいくしかないんだよ」

「友達や彼氏に気をつけろということですか」

「はっきり言うとそうだな」

(まるで、淳さんがさ詐欺師みたいじゃないか……)

うーん、素直に聞けない自分がいる。

「真理ちゃんのお父さんが、結婚前に連帯保証人になってて

結婚後に買ったお母さんとお父さんの共同名義の家を抵当に取られた話は知っているよね」

「小さな頃に何度か聞いたことがあります」

「相手に悪気が無くても、そう言うこともあるってことだ」

「なるほど、解りました。調べます」

「備えあれば患いなしさ」

「了解」

「しっかり学べば、お客様にもライフプランナーとしてご提案できるしね」

「はい、ネットで調べます。対処します」

「うむ、真理ちゃんが本気で保険のセールスをするのなら

先輩として、役に立ちたいと思っている」

「ほうれんそうします」

「うむ、君が育つことを心から愉しみにしているよ」


なるほどねー。

おかあさんの好きだったえいちゃんだって、詐欺にあったくらいだもの。

調べておいて損はないよね。


わたしは、脳内お花畑でこのまま淳さんと結婚できたらと夢見ているけれど

結婚してから惨いハラスメントとかあったら嫌だし

一般常識の結婚の条件くらいは調べて損はないよね。


結婚相手に求める条件とは

価値観が近いこと 72.2%

一緒にいて楽しいこと 67.8%

一緒にいて気をつかわないこと 65.7%

金銭感覚 35.3%


まだ淳さんのこと、ほんとに何にも知らない。


詐欺師は、自分のスペックを高くしがち。

学歴、職業、趣味。

これもまだ知らない。

婚活サイト、アプリに出現する。

相席屋もそのひとつだろうか。

婚活パーティーなども要注意だそうだ。

結婚前提の申し出

まだそこまではいってないわ。

マメにプレゼントする。

おお、女心をくすぐるのね。

でも、わたしが欲しい物じゃなければかさむばかりなんだけど……。

現金手渡しを要求してくる。

要求例

会社が倒産しそうで大金が必要になった

投資するためにお金が必要だが一部足りない

家族が難病、病気等で高額な治療費が必要になった

事故、事件が起きてしまい示談金、賠償金が必要になった

お金を貸した相手に逃げられた、もしくは保証人になってしまった

YouTubeの動画だとデートでお財布を忘れて来たとかもっと小さいお金のこともあるみたい。

いきなりいなくなる。連絡取れない。

ひ―――ってヤンデレになりそう。

相手の勤務先、住んでいる所くらいは把握した方がいいのね。

高スペックであなたの理想にぴったりの異性が、早い段階で結婚話を始めた場合は要注意。

はうーー。こわいねー。

あなたが好きなルックスで、年収が高くて優しい相手は結婚詐欺師を疑ってください。

そうよね。何も好き好んで子供部屋おばさんをお嫁に貰う必要はない物ね。

あなたを誰にも紹介しない

写真に写りたがらない

予備知識として、知ってて損はない。

淳さんとわたしはまだ始まったばかり。

大切に愛の苗を育てていきたい。

一旦ぺしゃんこにへこんだ風船が少しずつ希望に満たされて行く。

とりあえず、ここが持ち家である事や遺産があることは内緒にしておこう。


「おはようございます」

淳さんの寝て居る和室の雪見障子をあけ放ち、サッシを解放した。

東の空が薄くピンクに染まり、美しい朝やけが見える。

ちょっと冷たい空気がすーーと流れ込み、優しく頬を撫でる。

歯磨きのセットとうがいの希釈液とをわたし、

上から一枚羽織ってもらった。

「ひげそりがないね」

「あと何日かで、家に帰れるだろうから大丈夫」

うっすらと、鼻の下こめかみ、顎の下とひげがぷちぷちと出て来ていた。

「ごめんね」

「真理ちゃんだって、買い物に行けないんだから仕方ないよ」

患っている本人の淳さんよりも潜伏期間のある真理の方が気楽に外に出ることははばかられる。

「ジャスミンティー飲む?」

「飲んだことない。頂こうかな」

ちょっと目を細めて、茶葉の入ったポットを眺めている。

「淳さん、怒らないで聴いてほしいの」

「ん?」

「さっき、叔父から電話で身元も知らない人を家に泊めているのかと注意されたの。

できたら、身分証明書みたいなものを見せてもらえたら嬉しいんだけど……」

本当に申し訳なさそうに上目遣いに告げる。

一瞬、全ての時の流れが止まったような感じがした。

(やっぱり、言ってはいけない事を言ってしまったのかしら?)

(疑われているみたいで気分のいいものじゃないわよね)

顔色をうかがいながら、疑ってるわけじゃないのになと思ってしまう。

さっきまで爽やかな空気は、一瞬よそよそしい他人の顔に変わってしまう。

(ああ、できることなら、こんな事言いたくなかったんだけどな)


「そりゃあそうだな。誰だってそう言うよ」

「ごめんねー」

「生死の境をさまような40℃もの高熱を出して、万が一のことがあったら

何処に連絡していいのかさえ割らなかったんだろう」

「そうねー」

「すまん。自分の事で精一杯で気が付かなかったよ」



淳さんはすっくと立ち上がり、運転免許証と社員証をわたしの目の前に置き、

伺うように

「これでいいかな?」

と、聴いて来た。

淳さんだけに提示させるるのは片手落ちなので、わたしも子供部屋に戻りバッグの中から、

運転免許証と社員証を取り出した。

「では、こうかんこ」

「ぷっ」

淳さんが噴出してしまう。

「その神妙な顔…」

「だってーーー。こういうの慣れなくて…」

「慣れてたら困る」

「そりゃあ、そうね」

二人で顔を見合わせて笑いこける。

何かつぼにはまったみたいで二人とも何時までも笑っている。

ヤッパリ、この人といると楽しい―。

「では、改めて拝見させて頂きます」

淳さんは私の運転免許証を手に取って眺めている。

「写真写りはまぁまぁかな」

「なんか、注意された時、わたしはとんでもないことをしてるのかなってとっても怖かった」

「そうだね。知り合ったばかりの人を普通は泊まらせたりしないね」

「う  ん」

「これが最初で最後ということでしゃんしゃん」

大きく柏手をうって挙句にわたしを神様みたいに拝んだ。

「?」

「これからよろしくおねがいします。僕の大切な姫様」

「これ、コピーしておじさんに見せてもいい?」

「お互いに大切にできたら嬉しいな」

目じりの皺が深くなり、人のよさそうな優しい顔になった。

(これで第一関門は通過だよね?おじさん)

ああ、ジャスミンティー、ポットの中のまま。

慌ててお湯をたし、注いだ中にさっき庭からとって来たジャスミンの花を添える。

白磁のボーンチャイナのカップに薄い茶色の液体と白い小さなお花が揺らぐ。

さっきまでの一瞬の緊迫した空気は消え、何時もの穏やかな空気に変わっていく。

そっと、茶器に口づける淳さんの唇を見て、

熱のために少し荒れているのかなと思った。

お茶を飲み終わったら、買い置きのリップクリームを持ってきてあげよう。

恋の手はじめは、相手に関心を払うこと。

相手をほめること。


結婚前には両目を大きく開いて見よ結婚してからは片目を閉じよ
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