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ずぶずぶと泥に飲み込まれていく。
濁った泥水が毛穴をふさいでいく。
ヘドロのような汚泥(おでい)が体にへばりついてくる。
穴という穴にゆっくりと侵入してくる。
ドジョウでもいたら、しめて柳川鍋にするのに。
死ぬ間際でさえ、食い意地の張った穢れた魂。
溺れる者は、助かりたい一心で何かにしがみつこうとする。
その掌は空を切る。
踏みしめる大地を失った私は、バランスを失っていく。
あがけばあがくほど、底なし沼に引きずり込まれる。
べとべとのびちゃびちゃ。
鼻がひん曲がるほどの悪臭を放つ。
「覚悟してたんだろう?」
まるで回復しかけのアルコール依存症者がたった一度の飲酒で前よりもひどい状態になるように、オンラインゲームを止める事が出来ない。せっかく続いていたラジオ体操も保険会社の研修も行くことはなくなり、元の木阿弥。
一日中家に引きこもり、外に出る事さえない。
芥川龍之介の蜘蛛の糸なら、救いもあっただろうに……。
母が身罷って入院するまでと同じ生活に舞い戻ってしまった。
『犬は自分の吐いたものに戻り,豚は洗われてもまたどろの中で転げ回る』
ペテロ第二 2:20-22。
お母さんは、おばあちゃんと自分の赤ちゃんが二人死んだとき喪失感から抜け出すのに、アルコールにハマってしまった。
わたしは母のようになりたくない、絶対にならないと思いながら、ネットにハマっていく。
せっかく、耳にたこができるほど、何度も何度もその失敗談を聞いていたのにね。
「あ~あ」
「お弁当買ったほうが安くつくんじゃないの」
と、想いながらも自炊がんばっていたのにな。
ゴミも分別して出せていたのにな。
毎日のトイレとお風呂の感謝行掃除も出来ていたのにな。
「ぐふ、ここまでか」
「むねんじゃーーー」
「日記みたいだと人から言われても、アルファポリスで頑張って書いていたのにな」
ずぶずぶと底へ底へと、闇の中をさまよう。
藻掻く、あがく、暴れる。
何をしても無駄みたい。
どんどん奥へ奥へ。
とうとう私の手は水面から見えなくなっていく。
「やれるだけやった」
「ほんのちょっと油断してしまったけど、少しは頑張った」
「大丈夫だよね。このまま死んでも……」
あがきながら藻掻きながら体内に溜めた酸素は今、消え去ろうとしている。
ぶくぶくと銀の玉のような気泡が立ち上る。
ありがとうございました。
いい人生でした。
深い深い沼の底で静かに横たわる。
わたしは死を受け入れた。
……。
「恐れてはならない。
わたしはあなたと共にいるからである。
周りを見回すな。
わたしはあなたの神だからである。
わたしはあなたを強くする。
わたしはあなたを本当に助ける。
わたしはわたしの義の右手であなたを本当にしっかりととらえておく……。
わたし,あなたの神エホバは,あなたの右手をつかんでいる。
あなたに,『恐れてはならない。わたし自らあなたを助ける』と言うその方が」。
イザヤ4章10節
目が覚めると、ふかふかの毛足の長いタオルケットに包まれて裸のまま眠っている私がいた。
「夢だったのかな?」
当たりを見まわたすと小さな金魚鉢に淡いピンクの蓮の花が一輪。
蓮の花の花言葉は、『神聖』
今日、私は洗われて清くなったのです。
濁った泥水が毛穴をふさいでいく。
ヘドロのような汚泥(おでい)が体にへばりついてくる。
穴という穴にゆっくりと侵入してくる。
ドジョウでもいたら、しめて柳川鍋にするのに。
死ぬ間際でさえ、食い意地の張った穢れた魂。
溺れる者は、助かりたい一心で何かにしがみつこうとする。
その掌は空を切る。
踏みしめる大地を失った私は、バランスを失っていく。
あがけばあがくほど、底なし沼に引きずり込まれる。
べとべとのびちゃびちゃ。
鼻がひん曲がるほどの悪臭を放つ。
「覚悟してたんだろう?」
まるで回復しかけのアルコール依存症者がたった一度の飲酒で前よりもひどい状態になるように、オンラインゲームを止める事が出来ない。せっかく続いていたラジオ体操も保険会社の研修も行くことはなくなり、元の木阿弥。
一日中家に引きこもり、外に出る事さえない。
芥川龍之介の蜘蛛の糸なら、救いもあっただろうに……。
母が身罷って入院するまでと同じ生活に舞い戻ってしまった。
『犬は自分の吐いたものに戻り,豚は洗われてもまたどろの中で転げ回る』
ペテロ第二 2:20-22。
お母さんは、おばあちゃんと自分の赤ちゃんが二人死んだとき喪失感から抜け出すのに、アルコールにハマってしまった。
わたしは母のようになりたくない、絶対にならないと思いながら、ネットにハマっていく。
せっかく、耳にたこができるほど、何度も何度もその失敗談を聞いていたのにね。
「あ~あ」
「お弁当買ったほうが安くつくんじゃないの」
と、想いながらも自炊がんばっていたのにな。
ゴミも分別して出せていたのにな。
毎日のトイレとお風呂の感謝行掃除も出来ていたのにな。
「ぐふ、ここまでか」
「むねんじゃーーー」
「日記みたいだと人から言われても、アルファポリスで頑張って書いていたのにな」
ずぶずぶと底へ底へと、闇の中をさまよう。
藻掻く、あがく、暴れる。
何をしても無駄みたい。
どんどん奥へ奥へ。
とうとう私の手は水面から見えなくなっていく。
「やれるだけやった」
「ほんのちょっと油断してしまったけど、少しは頑張った」
「大丈夫だよね。このまま死んでも……」
あがきながら藻掻きながら体内に溜めた酸素は今、消え去ろうとしている。
ぶくぶくと銀の玉のような気泡が立ち上る。
ありがとうございました。
いい人生でした。
深い深い沼の底で静かに横たわる。
わたしは死を受け入れた。
……。
「恐れてはならない。
わたしはあなたと共にいるからである。
周りを見回すな。
わたしはあなたの神だからである。
わたしはあなたを強くする。
わたしはあなたを本当に助ける。
わたしはわたしの義の右手であなたを本当にしっかりととらえておく……。
わたし,あなたの神エホバは,あなたの右手をつかんでいる。
あなたに,『恐れてはならない。わたし自らあなたを助ける』と言うその方が」。
イザヤ4章10節
目が覚めると、ふかふかの毛足の長いタオルケットに包まれて裸のまま眠っている私がいた。
「夢だったのかな?」
当たりを見まわたすと小さな金魚鉢に淡いピンクの蓮の花が一輪。
蓮の花の花言葉は、『神聖』
今日、私は洗われて清くなったのです。
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