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わたし、母さんが身罷る前から洗濯だけは好きでよく洗っていた。

かあさんの葬式が終わったばかりの頃、わたしは一日中洗濯をしていた事がある。

そして、わたしの悪い癖で洗濯はするんだけど乾いたものを部屋干ししたままだったり、洗ったカーテンを適当に押し入れの中に入れてしまったり。

まぁ、カーテンの住所がないんだから迷子になるのは当たり前なんだけどね。

眩し過ぎる子供の部屋の窓を見るとカーテンは外されたままだった。

「よし、今日はこれを付けよう」

「どこに置いたんだっけ」

押し入れの中を開けたけど、タオルケットや長袖の上着やトレーナー、シャツブラウスが袖畳して、うずたかく積まれている。押し入れダンスに片付けることになっているのだが、場所がいっぱいで入らない。だから、多分そのまま上へ上へと積み上げていったんだろう。それにしても、家にいるだけだった引きこもりのわたしがどうしてこんなに同じようなデザインの洋服やズボンを幾つも持っているんだろう。しかも、ズボンは、ひもが抜けて履けない状態。

まったくもう。だらしない。

ちゃんとひもを通せば、新しいものは必要ないのに、次から次へと買ってもらったのかな?

親も言っても同じ過ちを何度も何度もするからしまいには言わなくなるんだろうな。

「それはともかく、カーテン、カーテン」

自分のだらしなさをどやしつけてやりたい気持ちと闘いながら、

「責めちゃダメ、人も自分も責めちゃダメ」

と宥める様に言い聞かせる。

目的のカーテンがなかなか見つからない。

シーツを押し入れから出し、タオルケットを出し、ズボン、トレーナー、次から次へと部屋の中でお店屋さんごっこ。

「やすいよ、やすいよ」

あははは、楽しい。

底の方に水色のかわいい花のカーテン発見。

「やったー、あったー」

「さて、つけましょう」

窓はすりガラスなのだが、近寄りたくない程眩しく明るい。

「どうせ、わたしは陰キャねくらですよー」

あれ、あれれれ。

今度は金具が見つからない。

「確か、この辺に置いたはず」

と探してみるが影も形もない。

机の下をかがんでみたり、箱の中をのぞいてみたり、あうう、やっぱり見当たらない。

仕方ないので、台所の傍の小物入れのラックを除くと袋に入っていた。

「あったー」

これでやっと付けられる。

2時間も過ぎている。

既に9時30分。

はあはあ、なんと無駄の動きが多い人生。

それでもやらないよりはいいよね。

出来るようになっただけでも感謝だよね。


言葉は人生を変える

最強のツール💛


言い聞かせるように育むように慈しむように自分に声かけ。

こうしてやっと、カーテンを付けたのはいいのですが、問題はここからです。

押し入れから出した大量のシーツやタオルケット、トレーナー、ズボン、Tシャツ。

住所が見つからないのです。

引き出しは一杯です。

そして、更にびっくりする事に押し入れの中に植木鉢が幾つも入っていたのです。

「Why?」


小林 真理。

大学を卒業して、就活に失敗しそのままずるずるとずっと家の中で過ごしている。

40歳の子供部屋おばさんだ。

「君はほんとにおもしろい奴だね」

あきれ返って笑ってしまう。


おおざっぱに片づけて、オシロイバナの写真を撮りに向かう。

ところが、花は一つも開いていない。

さっきまであんなにはんなりとときめく色をお披露目していたのに。

しょぼ~ん。


オシロイバナの花は、夕方に咲き、翌朝にはしぼんでしまうという性質をもっています。 この様子が人目を忍んでいるようであることから、「臆病」「内気」という花言葉がつきました。


まるで、源氏物語の夕顔みたいなお花ですよね。

今宵は、あなたの一夜妻。

そっと触れ合う指と指。

ぐい飲みのグラスも冷蔵庫で冷やして、きーんと冷たい香味豊かな生酒に二人の心もホロリと溶ける。

おいしい真鯵が手に入ったので、エラから料理ハサミを差し込み、脊柱(背骨に当たる部分)をバチンと断ち切る。

潮氷に放り込み、ぜいごを削ぎ落とす。

お刺身にしても塩焼きにしても美味よね。

あなたとじゃれ合いながら、台所で魚をさばくのは楽しい。

梅干しを潰して、梅醤油でもおいしい。

庭から紫蘇を取って来て刻んで載せても彩豊。

今日の私は機嫌がいい。

想い人のあなたがそばに居てくれるから。

お惣菜に買ってきたきんぴらゴボウも、ひじきの煮物も箸休めにいい。

「あ~んして」

あなたはちょっと照れながら、口を開ける。

私はすり下ろしたばかりのわさびと一緒に鯵のお刺身をあなたの口へ。

「おお、わさびがつんと」

あなたは鼻を押さえながら笑った。

鼻に抜けたのかな?

BGMは高橋竹山先生の津軽じょんがら節。

太棹の響きが二人のソウルを揺さぶる。

「この選曲いいね」

あなたはちょっと口をすぼめて嬉しそうに呟いた。

青い空に薄く箒で掃いたような軽い羽のような雲が広がる。

もうすぐ、あなたと私のオシロイバナが咲く。

紡ぎましょう。あなたと私の夢物語。
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