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投げやりな言葉とネガティブ思考。

希死念慮と粗大ごみより価値がないという穿った認知のゆがみ。

自尊心のなさに反比例して傲慢の風船を膨らませて釣り合いをとる。

素直になんてなれなかった。

そんなことした日には、むきたて卵のように傷つきやすくなっちまう。

爪で容易に立ち直れない程の跡が付く。

わたしは、めんどくさがりでネガティブで何もかも放り投げて

生きることさえ放棄したかった。

だって、生きていたってもう誰も喜んでくれない。

何度も主治医に叫んだ。

「わたしなんか生まれて来るんじゃなかった」

その度に、主治医もカウンセラーも親身になって相談に乗ってくださる。

そして、いつも最後には

「生きる価値があるんです」

と、何度も何度も教え諭してくださる。

その度に、病室のベッドの枕に顔をうずめて泣いた。

そう思える日が来ますように。



少しずつ家に帰って独りで生活できるように

主治医、ケースワーカー、カウンセラーが

17年間の子供部屋おばさんを導こうとしてくださる。

地域の担当の保健婦さんともつながりを持つことができた。

精神病院に入院して3カ月。

少しずつ、体力もついて健康に向けて投げやりな気持ちからも脱却しようとしている。

みなさんの励ましもあって、わたしは社会復帰しようとしていた。

80/50、70/40問題と呼ばれる社会現象。

貧困家庭の子供たちが食べる物もないという現在、

私の育ったころはまだ裕福だったのだろうか。

ひきこもりと騒がれ始めたころ、なんの解決策も無くそのままずるずると

親子ともに年を取ってしまったのが子供部屋おじさん、おばさん。

な~んて、ない頭で考えながら外泊で自分の家に戻ってきた私は

うずたかく積まれたゴミの山をなすすべもなく眺めていた。

今回、自分がこれから何をしたいのか

それは独りでできるのか援助が必要なのか

をかき出してくるというとってもめんどくさい課題が出ている。

母と父の位牌がある仏間に座り、

熱中症対策にと買ってきたスポーツドリンクをゆっくりと飲み干す。

ほんの少しだけ白く混濁したその液体は、

吸い込まれるように喉を通り過ぎていく。

薄ら甘いちょっと灰くさい味

さっき冷凍庫から出したばかりのペットボトルの氷は

あっという間に溶けていく。


衣食住。

今住んでいる家が賃貸なのか持ち家なのかもわからない。

「めんどくさいなー」

最近、こればっかり。

ひきこもり17年間の負債は何か新しい事をする度に

真っ向から大きく手を開いて道を塞ごうとする。

まるで、仁王様に通せんぼされているみたいに。

「ふーー」

ためいきはついちゃいけないとか……。

それでもやらないよりはいい。

ガス抜きが今の私には必要なのだ。

ひとつひとつに言い訳しようとする。

自己正当化、理由づけ。

だんだん私の行動のパターンも読めて来た。

いつか、素直に喜んでチャレンジする事が出来る日が来ることを信じて

一つ一つ丁寧に熟して行こう。


土地建物などの不動産の名義が、現在誰になっているかを調べるにはどうしたらよいでしょうか?

法務局で登記簿謄本(登記事項証明書)を取得すれば、現在誰の名義なのかわかります。


便利な時代だよね。

スマホやパソコンでちゃんと調べられる。

わたしの住んでいる所だと、板橋区立教育科学館ずっと先の方に

出張所があることがわかった。

車で23分。

「めんどくさー」

この言葉を飲み込む訓練もしないとね。

車は処方の精神薬も飲んでいるので自転車で行くことにした。

冷凍庫から、凍った別なペットボトルを出しタオルにそっとくるんだ。

「帽子を持ってないから、これで涼を取れたらいいんだけど」

ほんとにぶつぶつと独り言が多い。

まるで初めてのお使いにいくように緊張しながら法務局にGO。

持ち家だと、生活保護を受けるには財産を処分してからと聞いた。

固定資産税も相続税もかかるかも。

「あーあ、やっぱり、めんどくさー」

街は障子を取っ払ったようにあけっぴろげな解放感と共に

全てを焼けつくしてしまうほどのにこにこがおのお日様が

我が物顔で歓迎してくれる。

何かをするためにこうして外に出たの何年ぶりだろう……。

ルドベキアの黄色い花びらが寄り添うように笑う。
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