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信じる力
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「信じる力」
春の風がまだ冷たい朝、僕は大学のキャンパスを歩いていた。周りには忙しそうに歩く学生たち、カフェで友達と楽しそうに話す姿が見える。でも、僕の心はどこか重たかった。いくら頑張っても結果が出ない日々が続き、何をしても自信が持てなくなっていた。
僕は大学のサークルで長距離ランニングをしていた。最初はただの運動不足解消のために始めたが、次第に仲間たちとの練習が楽しくなり、いつの間にか大会を目指すようになっていた。しかし、練習を重ねるたびに他のメンバーとの差は広がっていった。走っても走っても、誰よりも遅い。どんなに努力しても、タイムは思うように縮まらなかった。
「お前、いつも最後だな」と、先輩に軽口をたたかれたこともあった。その言葉が胸に刺さり、自分には向いていないのかもしれないと何度も思った。でも、辞める勇気もなく、ただ流れに身を任せるように走り続けていた。
きっかけの言葉
ある日、大学の帰り道に立ち寄った図書館で、偶然目にした本があった。タイトルは「信じる力」。何気なく手に取ったその本の中に、印象的な一文があった。
「自分にはできると信じれば、あなたはもう道半ばまで来ている」
その言葉に、僕はハッとした。これまでの自分はどうだったのか。タイムが遅い自分、結果が出ない自分、そんな自分ばかりを見つめていた気がする。何かを信じたことなんて、あっただろうか。心の中に湧き上がる疑問と共に、その言葉が深く刻まれた。
信じることの難しさと具体的な練習
翌日の練習は、いつもと同じスタートだった。グラウンドを数周し、ウォームアップを終えた後、坂道ダッシュのメニューが始まった。この練習は、僕にとっては特に厳しかった。短距離のスピードを出すのが苦手で、何度も途中で息が切れて歩いてしまったことがあった。
「今日は絶対に歩かないぞ」と心に決めて、スタートラインに立った。坂道を見上げると、先輩や同級生たちが既にスタートを切っている。彼らの背中がどんどん遠ざかっていくのを見ながら、僕は必死に足を動かした。
一度目のダッシュは何とか走り切れた。呼吸が荒くなり、心臓が激しく鼓動しているのがわかる。次のスタートの合図がかかるまでの数十秒間、僕は必死に呼吸を整えた。「自分にはできる」と信じること、それがどれほど難しいかを実感する瞬間だった。
二度目、三度目とダッシュを繰り返すごとに、足は重くなり、体が鉛のように感じられた。呼吸は浅く、頭がぼんやりとしてくる。心の中では「もう無理だ、休みたい」と何度も囁く声が聞こえる。それでも、あの言葉を思い出していた。「自分にはできると信じれば、もう道半ばだ」と。
四度目のダッシュのとき、足がもつれて転んでしまった。膝に鋭い痛みが走り、泥だらけになった自分を見て、思わず悔しさで涙がこぼれた。僕は膝を押さえながら立ち上がり、仲間たちが心配そうに振り返るのを感じた。先輩が駆け寄ってきて「無理するなよ」と声をかけてくれたが、僕は首を横に振り、「まだやれる」と呟いた。
痛みを抱えたままの五度目のダッシュは、正直きつかった。体が言うことを聞かず、先輩たちの背中はさらに遠くなった。それでも、僕は目を閉じて、自分の中の信念に問いかけた。「まだやれるか?」——そして自分の中からの答えは、「やれる、信じよう」というものだった。
信じることは、痛みや不安を消し去る魔法ではない。けれど、その小さな信念が、僕をもう一歩、そしてまた一歩と前に進めさせてくれる。最後のダッシュのとき、僕は自分のペースを守りながらゴールを目指した。仲間たちよりも遅れてゴールしたけれど、その瞬間の達成感は、これまでの練習の中で一番だった。
大会当日と信じる力
その後も、僕は毎日の練習で自分を信じることを忘れないようにした。結果がすぐに出るわけではなかったが、少しずつ体力がつき、タイムも縮まっていった。そして、いよいよサークルのメンバーで出場する大会の日がやってきた。
大会当日、僕はスタートラインに立ちながら深呼吸をした。周りの選手たちは皆、緊張の面持ちで、僕と同じように心の中で何かと戦っているように見えた。スタートの合図が響き、僕はゆっくりと走り出した。最初は周りの選手が一斉に飛び出し、僕の前を駆け抜けていくのが見えた。でも、その時僕は焦らなかった。自分にはできる、最後まで走り切るんだと信じていた。
レース中盤、ペースが落ちかけたときも、「これまでの練習を思い出そう」と自分に言い聞かせた。坂道ダッシュで転んだときのこと、痛みを押しながら走り続けた日のこと。その全てが僕を支えていると感じた。最後の直線に差し掛かったとき、僕は持てる力を振り絞り、全力で走った。
結果は決して上位ではなかったが、自己ベストを更新した。その瞬間、僕は自分の成長を実感し、何よりも自分を信じたことに誇りを感じた。先輩や仲間たちが拍手をしてくれて、僕は笑顔で彼らの元に駆け寄った。
「お前、よくやったな」と先輩が言ってくれた。僕はただ「ありがとう」と返したが、その言葉にこめた感謝は、僕自身への感謝でもあった。これからも走り続けるだろう。信じる力があれば、どんな道も乗り越えていける。そう信じて、僕はまた新たな一歩を踏み出した。
「自分にはできると信じれば、あなたはもう道半ばまで来ている」。その言葉は、これからも僕の心の中で灯り続けるだろう。
春の風がまだ冷たい朝、僕は大学のキャンパスを歩いていた。周りには忙しそうに歩く学生たち、カフェで友達と楽しそうに話す姿が見える。でも、僕の心はどこか重たかった。いくら頑張っても結果が出ない日々が続き、何をしても自信が持てなくなっていた。
僕は大学のサークルで長距離ランニングをしていた。最初はただの運動不足解消のために始めたが、次第に仲間たちとの練習が楽しくなり、いつの間にか大会を目指すようになっていた。しかし、練習を重ねるたびに他のメンバーとの差は広がっていった。走っても走っても、誰よりも遅い。どんなに努力しても、タイムは思うように縮まらなかった。
「お前、いつも最後だな」と、先輩に軽口をたたかれたこともあった。その言葉が胸に刺さり、自分には向いていないのかもしれないと何度も思った。でも、辞める勇気もなく、ただ流れに身を任せるように走り続けていた。
きっかけの言葉
ある日、大学の帰り道に立ち寄った図書館で、偶然目にした本があった。タイトルは「信じる力」。何気なく手に取ったその本の中に、印象的な一文があった。
「自分にはできると信じれば、あなたはもう道半ばまで来ている」
その言葉に、僕はハッとした。これまでの自分はどうだったのか。タイムが遅い自分、結果が出ない自分、そんな自分ばかりを見つめていた気がする。何かを信じたことなんて、あっただろうか。心の中に湧き上がる疑問と共に、その言葉が深く刻まれた。
信じることの難しさと具体的な練習
翌日の練習は、いつもと同じスタートだった。グラウンドを数周し、ウォームアップを終えた後、坂道ダッシュのメニューが始まった。この練習は、僕にとっては特に厳しかった。短距離のスピードを出すのが苦手で、何度も途中で息が切れて歩いてしまったことがあった。
「今日は絶対に歩かないぞ」と心に決めて、スタートラインに立った。坂道を見上げると、先輩や同級生たちが既にスタートを切っている。彼らの背中がどんどん遠ざかっていくのを見ながら、僕は必死に足を動かした。
一度目のダッシュは何とか走り切れた。呼吸が荒くなり、心臓が激しく鼓動しているのがわかる。次のスタートの合図がかかるまでの数十秒間、僕は必死に呼吸を整えた。「自分にはできる」と信じること、それがどれほど難しいかを実感する瞬間だった。
二度目、三度目とダッシュを繰り返すごとに、足は重くなり、体が鉛のように感じられた。呼吸は浅く、頭がぼんやりとしてくる。心の中では「もう無理だ、休みたい」と何度も囁く声が聞こえる。それでも、あの言葉を思い出していた。「自分にはできると信じれば、もう道半ばだ」と。
四度目のダッシュのとき、足がもつれて転んでしまった。膝に鋭い痛みが走り、泥だらけになった自分を見て、思わず悔しさで涙がこぼれた。僕は膝を押さえながら立ち上がり、仲間たちが心配そうに振り返るのを感じた。先輩が駆け寄ってきて「無理するなよ」と声をかけてくれたが、僕は首を横に振り、「まだやれる」と呟いた。
痛みを抱えたままの五度目のダッシュは、正直きつかった。体が言うことを聞かず、先輩たちの背中はさらに遠くなった。それでも、僕は目を閉じて、自分の中の信念に問いかけた。「まだやれるか?」——そして自分の中からの答えは、「やれる、信じよう」というものだった。
信じることは、痛みや不安を消し去る魔法ではない。けれど、その小さな信念が、僕をもう一歩、そしてまた一歩と前に進めさせてくれる。最後のダッシュのとき、僕は自分のペースを守りながらゴールを目指した。仲間たちよりも遅れてゴールしたけれど、その瞬間の達成感は、これまでの練習の中で一番だった。
大会当日と信じる力
その後も、僕は毎日の練習で自分を信じることを忘れないようにした。結果がすぐに出るわけではなかったが、少しずつ体力がつき、タイムも縮まっていった。そして、いよいよサークルのメンバーで出場する大会の日がやってきた。
大会当日、僕はスタートラインに立ちながら深呼吸をした。周りの選手たちは皆、緊張の面持ちで、僕と同じように心の中で何かと戦っているように見えた。スタートの合図が響き、僕はゆっくりと走り出した。最初は周りの選手が一斉に飛び出し、僕の前を駆け抜けていくのが見えた。でも、その時僕は焦らなかった。自分にはできる、最後まで走り切るんだと信じていた。
レース中盤、ペースが落ちかけたときも、「これまでの練習を思い出そう」と自分に言い聞かせた。坂道ダッシュで転んだときのこと、痛みを押しながら走り続けた日のこと。その全てが僕を支えていると感じた。最後の直線に差し掛かったとき、僕は持てる力を振り絞り、全力で走った。
結果は決して上位ではなかったが、自己ベストを更新した。その瞬間、僕は自分の成長を実感し、何よりも自分を信じたことに誇りを感じた。先輩や仲間たちが拍手をしてくれて、僕は笑顔で彼らの元に駆け寄った。
「お前、よくやったな」と先輩が言ってくれた。僕はただ「ありがとう」と返したが、その言葉にこめた感謝は、僕自身への感謝でもあった。これからも走り続けるだろう。信じる力があれば、どんな道も乗り越えていける。そう信じて、僕はまた新たな一歩を踏み出した。
「自分にはできると信じれば、あなたはもう道半ばまで来ている」。その言葉は、これからも僕の心の中で灯り続けるだろう。
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