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春秋花壇

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臆病という生き方

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臆病という生き方

ある小さな町に、慎重すぎるほどに臆病な少女、紗季が住んでいた。彼女は12歳で、他の子供たちが元気に遊ぶ公園や学校の体育館には滅多に姿を見せなかった。彼女は自分が人とは違うことを知っていたし、それが彼女の中に深く根付いていた恐れを正当化していた。

「紗季ちゃん、また来ていないの?」

体育の先生が出席簿を見ながら眉をひそめた。クラスメートたちも、すでに彼女の欠席には慣れてしまっていた。紗季は家の中が最も安全だと感じていた。両親は優しく、彼女の内向的な性格を尊重していたが、彼女の臆病さが日々増していくのを見て心配していた。

学校が終わると、紗季はすぐに家に帰り、鍵をかける。玄関のチェーンロックもかけ、窓のカーテンを閉じて、外からの視線を完全に遮断する。彼女の部屋はまるで小さなシェルターのようだった。そこで彼女は本を読み、絵を描き、時には夢中になってゲームをして過ごした。

ある日、紗季の母が夕食の席で彼女に話しかけた。

「ねえ、紗季、今度の週末に町の祭りがあるのよ。お父さんと一緒に行ってみない?」

母の提案に、紗季はすぐに頭を横に振った。「行きたくない」と短く答える。彼女は人混みや大きな音、突然の出来事が何よりも怖かった。予期せぬことが起こる可能性がある場所には行きたくなかった。

「でも、少し外に出てみるのもいいと思うわ。外には楽しいこともたくさんあるのよ」と、母は優しく言ったが、紗季の心は揺るがなかった。

「お母さん、私は外に出たくないの。安全じゃないもん」と紗季は反論した。その言葉に母はため息をついたが、無理に誘おうとはしなかった。

その晩、紗季は自分の部屋でいつものように本を読んでいた。読んでいるうちに、彼女はある一節に目が留まった。

「生き延びるためにはたった一つ、臆病でいてください」

それは彼女が読んでいた冒険小説の中の、主人公が生き残るためのアドバイスとして書かれていた言葉だった。その言葉が紗季の心に深く響いた。彼女は自分の臆病さが単なる弱さではなく、生き延びるための手段だと思った。世界は危険に満ちている。そして、彼女の臆病さこそがその危険から自分を守っているのだと信じた。

しかし、数日後、紗季の信じていた安全なシェルターが揺らぐ出来事が起こった。町に大きな地震が襲ったのだ。紗季はその時、部屋で一人きりだった。激しい揺れに棚が倒れ、物が次々と落ちてきた。恐怖で動けなくなり、彼女はただベッドの下に隠れ、揺れが収まるのを待った。耳を塞ぎ、目を閉じ、ただ震えるだけだった。

「お母さん、お父さん」と心の中で何度も呼びかけたが、声には出なかった。家が安全な場所ではないと感じたのは初めてのことだった。揺れが収まり、家の中が静けさを取り戻した時、紗季は恐る恐るベッドの下から這い出た。彼女の部屋はめちゃくちゃになっていたが、幸いにも怪我はなかった。

その夜、紗季は両親の元に駆け寄り、しがみつくようにして眠った。彼女は臆病でいることがすべてを守ってくれるわけではないと初めて感じた。そして、臆病さだけでは守りきれない何かがあるのだと気づいた。

数日後、町の復興作業が進む中、紗季は少しずつ外に出るようになった。最初は短い距離だったが、歩き始めると次第にその距離を伸ばしていった。学校の友達と話すことはまだ怖かったが、少なくとも外の空気を吸うことに抵抗はなくなっていた。

ある日、紗季は公園のベンチに座り、静かに空を見上げた。風が頬に触れ、木々がさやさやと音を立てていた。恐怖はまだ完全には消えていなかったが、少しだけその重さが軽くなっている気がした。彼女はその時、臆病でいることと勇気を出して一歩踏み出すことのバランスが大切なのだと、なんとなく理解した。

母が彼女に寄り添い、静かに微笑んで言った。「怖がってもいいのよ。でも、少しずつでいいから、自分の殻を破ってみるのもいいかもしれないわね」

紗季は小さくうなずいた。「うん、少しだけ…頑張ってみる」

その日から紗季は、少しずつ自分の殻を破っていく決心をした。臆病でいることは大切だが、それに縛られすぎないこともまた、彼女の新しい生き方だった。彼女はこれからも、少しずつ自分のペースで世界と向き合っていく。恐怖に打ち勝つ必要はない。ただ、それと共に生きていくことを選んだのだ。










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