感情

「ああ、いらいらする」

「ああ、いらいらする」

11時46分。昼間だというのに、家の中は薄暗い。窓から差し込むはずの太陽の光も、重たいカーテンに遮られている。家族はみんな寝ている。まだ眠っているのか、それとも昼寝をしているのか、どちらでもいい。とにかく、電気をつけることもできず、私はパソコンの画面の光だけを頼りにして、イライラを感じながらその前に座っている。

「なんなんだ、これ…」

何かを書こうとしても、指は動かない。頭の中はぐるぐると考えが回り、まとまらない。自己需要、自己肯定感、自己なんとかかんとか――頭の中で自己をつけた言葉ばかりが踊っている。そんなもの、どうでもいい。自己なんて、くそくらえだ。

私はこのところ、感情が不安定だ。いや、ずっと前からそうだったかもしれないけれど、特に最近はひどい。ある日は朝から気分が沈み込み、何をしても意味がないように感じる。別の日は突然、何かに対する怒りが沸き起こり、何もかもが嫌になる。感情が定まらないまま、ただ時間だけが過ぎていく。

家族はそんな私の変化に気づいているのか、気づいていないのか、何も言わない。だからといって、私からも何かを話す気にはなれない。どうせ話したところで、理解されるとは思えないし、どんな返事が返ってくるかも想像がつかない。

「また自己需要かよ…」

自己需要なんて言葉を聞くと、私は無性にイライラする。自分を愛せるようになれば、他人からの評価なんて気にならないとか、そんな簡単なことじゃない。自分を愛すなんて言われても、どうやって？ その方法を知りたい。誰かが教えてくれるなら、今すぐにでも聞きたいくらいだ。

パソコンの画面を見つめながら、私はふと、なぜこんなにもイライラしているのかを考えた。家族が寝ていること？ 窓の外の陽の光を遮る重たいカーテン？ それとも、自分が何もできない無力さ？ どれも正解で、どれも違う。根本には何があるのか、もはや自分でも分からなくなっていた。

不意に、母のため息が聞こえてきた。隣の部屋からだろう。彼女もまた、何かに苛立っているのかもしれない。でも、その苛立ちの矛先が自分に向かうことが怖い。そう思うと、私はさらに小さくなってしまう。母に怒られるのは嫌だ。たとえどんな理由であれ、家族からの攻撃が私の心にどれほどの傷を残すか、彼らは知らない。

「こんな生活、もう嫌だ…」

そう呟いても、何も変わらない。結局、私はこの暗い部屋で、パソコンに向かって何も生産的なことができずにいる。イライラが募るだけで、解決策は見えてこない。何をすればいいのか、どこに向かえばいいのか。

しばらくして、私は意を決して立ち上がり、カーテンを少しだけ開けてみた。すると、強い日差しが部屋に飛び込んできた。その光は目を刺すようで、一瞬目を細めてしまった。暗闇に慣れた目には、その明るさがまるで別世界のもののように感じられた。

「やっぱり、こんな光、いらない」

私はカーテンを再び閉めた。光の中に飛び込む勇気がなかった。暗闇の方がまだ安心できる。自分の感情が荒れている時には、光はただの邪魔者だ。安心できるはずの家も、明るい光も、今の私には味方ではない。だから私は再びパソコンの前に座り、闇の中で一人、感情と格闘することにした。

突然、スマホが震えた。友達からのメッセージだ。内容は、何でもないようなことばかり。近況報告やちょっとした愚痴、それに対する私の反応を求めるメッセージだ。

「こんな時に…」

正直、友達のメッセージさえ煩わしく感じる。返信しないといけない義務感が、また新たなストレスを生む。だが、返信しないとそのうち「どうしたの？」と聞かれるのも目に見えている。だから私は短く、「うん、大丈夫だよ」とだけ返した。それ以上の言葉は必要ない。

その返事をした瞬間、私はまた苛立ちを感じた。自分の感情を抑え込んでまで、他人に合わせる自分が嫌だった。どうしてもっと自分の気持ちを正直に言えないんだろう？でも、言ったところで理解されるとも思えない。どうせ誰も、本当の私なんて分かってくれない。

その時、部屋のドアが突然開いた。母が立っていた。彼女は私を見て、少し眉をひそめた。

「また暗い部屋で何してるの？」

その一言に、私の中で何かが切れた。なんでそんな風に言うんだろう。私は精一杯この生活に耐えているのに、その一言が私の全てを否定するように感じた。

「うるさいな、ほっといてよ！」私は叫ぶように言ってしまった。

母は驚いたように目を見開き、しばらく私を見つめていたが、何も言わずにドアを閉めた。その姿を見て、私はまた後悔の波に襲われた。どうしてあんな風に言ってしまったんだろう。自分が嫌になる。自己嫌悪が押し寄せてきて、私はまたパソコンの前に頭を抱えた。

時間が経つのが遅く感じられる。秒針が一つ進むたびに、私のイライラはさらに膨れ上がっていく。結局、何も変えられないまま、私はここにいる。それが一番のストレス源なのだろう。何かを変えたいけれど、どう変えればいいのか分からない。このままの生活を続けるのは嫌だけど、抜け出すための勇気もない。

「自己需要か…」

その言葉が再び頭に浮かぶ。自己を受け入れることができれば、この苦しみから解放されるのだろうか。でも、それがどうしてもできない。そんな自分が嫌でたまらない。

「こんな自分でも、いつかは…」

その先の言葉は、私の喉の奥で詰まってしまった。未来なんて見えない。希望なんて持てない。だけど、どこかで変わることを信じている自分もいる。矛盾した感情が私を押しつぶそうとする。

時計の針は、まだ11時56分を指している。時間は進んでいるのに、私だけがこの場所で止まっているように感じた。電気を消したまま、パソコンの光だけが私を照らしている。その光の中で、私は一人、まだ答えの出ない問いと向き合い続けるのだろう。

そんな日も、ある。そんな自分でも、いつか光を見つけられるだろうか。