感情

揺らぎ

「揺らぎ」

莉奈は、窓の外をぼんやりと見つめていた。東京の空はどんよりと曇り、灰色の雲が低く垂れ込めていた。まるで彼女の心の中を映し出すかのようだった。少し前までは、彼女の心は期待で満ちていた。自分がやりたいと思っていたことに挑戦し、新しい環境に飛び込んで、新しい人たちと出会い、すべてが輝いて見えていた。

しかし、現実はそう甘くはなかった。職場では、自分の意見がなかなか通らず、上司や同僚との摩擦が絶えなかった。新しいプロジェクトに情熱を注いで取り組んだものの、結果は思わしくなく、期待外れの評価を受けた。日々の努力が報われないという感覚が彼女を襲い始め、次第にやる気を失っていった。

その日も、莉奈はいつものようにオフィスに向かっていたが、心は重く沈んでいた。彼女は、地下鉄の中で自分のスマートフォンを手に取り、SNSを開いた。友人たちが楽しそうに過ごす写真や、成功した報告が次々と流れてくる。その中に自分の居場所がないことを痛感し、莉奈はますます心を閉ざしていった。

「どうして、私だけこんなにうまくいかないんだろう？」

そう心の中で呟くと、涙がじわりと浮かんできた。隣の乗客に気づかれないように、急いで目元をぬぐった。地下鉄が駅に到着し、莉奈は人混みに紛れ込むようにして改札を抜けた。冷たい風が頬に当たり、彼女の心をさらに凍らせた。

オフィスに到着すると、莉奈はデスクに座り、パソコンの電源を入れた。今日もまた、同じような一日が始まる。メールをチェックし、報告書をまとめ、会議に出席し、そしてまた自分の意見が通らず、無力感に苛まれる。それが日常になりつつあった。

ランチタイムになり、莉奈は同僚たちと一緒に行くのを避け、ひとりでカフェに向かった。静かな席に座り、カフェオレを注文した。温かい飲み物が少しでも心を癒してくれることを願っていたが、その甘さは彼女の苦さを和らげるには程遠かった。

「何のために、こんなに頑張っているんだろう？」

その問いが頭から離れない。何度も何度も自分に問いかけるが、答えは見つからなかった。どれだけ努力しても、どれだけ苦しんでも、結果がついてこないことが、彼女をがっかりさせていた。そして、そんな自分に対してもがっかりしていた。もっと強くならなければいけないと思いながらも、心の中でその思いは空虚に響くだけだった。

カフェを出て、オフィスに戻る途中、莉奈はふと足を止めた。街の喧騒の中で、彼女だけが立ち尽くしているような感覚に襲われた。周りの人々はみな忙しそうに行き交い、それぞれの目的地に向かっている。そんな光景を見ていると、自分だけが取り残されているような気がしてならなかった。

その日の夜、莉奈は自分の部屋に戻り、ベッドに横たわった。疲れ果てていたが、眠ることができなかった。天井を見上げながら、これまでのことを振り返っていた。自分が選んだ道、自分が抱いていた夢、そのすべてが今や霞んで見えた。がっかりした気持ちが、彼女を深い孤独の淵に追いやっていた。

次の日も、その次の日も、同じような日々が続いた。莉奈は自分を奮い立たせようとしたが、心の中の重さがそれを許さなかった。がっかりする気持ちは増すばかりで、前に進む力を失っていった。

しかし、ある日、ふとした瞬間に、莉奈は気づいた。がっかりすることも、自分が努力してきた証拠であり、挑戦してきた証拠であるということを。結果がどうであれ、自分が歩んできた道に価値があることを。がっかりした自分を否定するのではなく、その感情を抱えたまま、それでも前に進むことが必要なのだと。

莉奈は深く息を吸い込み、立ち上がった。まだ不安や疑問は消えていなかったが、少しずつでも前に進む覚悟を決めた。がっかりすることは、成長の過程であり、次の一歩を踏み出すための準備であることを理解したからだ。

そして彼女は、再び自分の夢に向かって歩き始めた。がっかりしながらも、確かに自分が進むべき道を見つけるために。