陽だまりの家

春秋花壇

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温かさの選択

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「温かさの選択」

サクラは暖房のリモコンを手に取った。小さな手のひらにぴったり収まるリモコンのボタンを指先で一つ一つ押しながら、心の中で悩んでいた。設定温度は18度。環境省の推奨通り、エネルギーを節約するためには、これが最適だということを理解している。しかし、寒さがじわじわと体を締めつけてきて、どうしても耐えられなくなる。

「ママ、寒いよ。」6歳のハルが、毛布にくるまりながら小さな声で言った。

サクラは一瞬、答えるのをためらった。ハルが言う通り、寒い。指先が冷たくなり、足元がひんやりと感じる。それでも、エネルギー費を抑えなければならない現実が、心に重くのしかかっていた。生活費は限られており、毎月の支出をできるだけ減らさなければならない。

「うん、もう少し我慢しようね。」サクラはそう答えながら、温かいお茶を子供たちに渡した。次女のヒナと三女のミクも、手をこすり合わせて寒そうにしている。

サクラは小さなキッチンを横目に見ながら、もう一度リモコンを手に取った。温度を上げたいけれど、どうしても勇気が出ない。18度に設定しても、子供たちの体調に悪影響が出るわけではない。ただ、冷えた空気の中で長時間過ごしていると、やはり心身に負担がかかるだろうという不安がある。特に、ミクはまだ2歳。風邪をひいたら大変だ。

「でも、暖房代を少しでも安くするためには……」サクラは心の中で葛藤していた。

突然、ハルが立ち上がった。「ママ、サンマ焼こうよ!おなかすいた!」

サクラは驚いて顔を上げた。「サンマ?でも今はあまりお金もないし……」

「でも、サンマ、たべたい!」ハルが大きな目を見開いて言う。

その瞬間、サクラは自分の中で何かが切り替わるのを感じた。いつもは自分を犠牲にしてでも、子供たちに最適な生活を提供しようと考えていた。しかし、今、ハルが欲しがっているものがある。それは単なる食事ではなく、サクラが子供たちと一緒に過ごすために必要な時間、笑顔、そしてあたたかな家庭の一瞬を意味しているような気がした。

「分かった、サンマを焼こう。」サクラは決心して冷蔵庫を開け、サンマを取り出した。

小さなキッチンで、サクラはサンマを焼く準備を始めた。火を使うことには少し躊躇していたが、子供たちのためにできるだけ楽しい食事を作りたかった。焼ける音と共に、部屋の空気が少しずつ温かくなっていくのを感じる。

「ママ、すごい匂い!」ヒナが嬉しそうに言った。子供たちの元気な声に、サクラは少しだけ心が軽くなるのを感じた。

サンマが焼ける頃、サクラはリモコンに手を伸ばした。気づけば、温度を1度上げる決心をしていた。19度。まだエネルギーを節約しているとは言えないかもしれないが、サクラの心は少し温かくなった気がした。子供たちの笑顔を見ているだけで、その温かさが部屋の中に広がるように思えた。

「ありがとう、ママ!」ハルが言う。サンマをお皿に取り分けると、子供たちは嬉しそうに食べ始めた。

その夜、暖房は少しだけ強めに設定されていたが、サクラはそれを後悔しなかった。子供たちが笑顔で食事を楽しみ、温かい室内で過ごす時間は、エネルギーよりもずっと大切だと思った。寒さを感じることもあったが、それよりも、家族の絆を深めることの方が大きな力を与えてくれる。

サクラは心の中で言い聞かせた。「少しの贅沢は、今の私たちにとって必要なものかもしれない。」

翌日、サクラは再びリモコンを手に取った。18度に戻すつもりだった。でも、心はもう少しだけ、温かくていいと思っていた。






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