陽だまりの家

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
156 / 168

目をつむって、お日様を見る

しおりを挟む
目をつむって、お日様を見る

サクラは静かに目を閉じた。白いカーテン越しに、日差しが柔らかく部屋に注いでいる。外の風景は見えないが、心の中でそれを感じる。サクラは深呼吸をゆっくりと繰り返す。鼻から吸って、口から吐く。そのたびに体の中の重たい何かが少しずつ溶けていくような気がした。

「ママ、何してるの?」

長女のハルが部屋の入り口から覗き込んだ。サクラは目を開けずに、穏やかな声で答える。

「お日様を見るの。目をつむって、深呼吸をしながらね。光療法っていうんだよ。うつ病にもいいんだって。」

ハルは不思議そうな顔をしていたが、サクラの声のトーンに安心したのか、すぐに黙って横に座った。サクラは手を広げて、少しだけハルを抱き寄せた。二人の息が重なると、ほんのりと温かさが広がっていった。

「光療法って、どうして効くの?」

「体内時計を戻すんだって。お日様の光を浴びることで、昼と夜のリズムが整うんだって。だから、うつ病にも効果があるんだよ。」

サクラはゆっくりとした声で説明したが、実際に自分がその効果を実感できるかどうかはわからなかった。けれども、このひとときだけは確かなものを感じる。光が差し込む部屋で、深呼吸をする時間が、少しずつサクラの心を解きほぐしていく気がした。

「ママ、ミクが泣いてる!」

次女のヒナの声が耳に入った。サクラは小さく息を吐き、ゆっくりと立ち上がる。体のだるさが残っているが、子供たちの声を無視するわけにはいかない。ヒナと一緒にリビングに行くと、ミクが泣きながら座っている。

「どうしたの、ミク?」

サクラはそっとミクを抱き上げた。ミクは手を伸ばして、サクラの首にしがみつく。涙が頬を伝っていた。

「おもちゃが壊れちゃったの。」

「大丈夫、大丈夫。ママが直してあげるからね。」

サクラは優しくミクの背中をさすりながら、壊れたおもちゃを手に取った。そこにハルとヒナがそっと寄り添ってきた。

「ママ、僕も手伝う!」

ハルは手を差し出したが、サクラは微笑みながらその手を取らない。壊れたおもちゃをどうにか元に戻そうとするサクラの手が震えていた。作業が進まないうちに、心の中で苛立ちが募っていくのを感じた。やりたいことは山ほどあった。でも、どこかで、体が言うことを聞いてくれない。

「ママ、休んでていいよ。」

ヒナが静かに言った。その優しさに、サクラはまた心が温かくなった。サクラはミクを抱きしめ、やっとおもちゃを元通りにすることができた。

その後、夕方の光が部屋に差し込むと、サクラは再び深呼吸をした。子供たちを寝かしつけた後、静かな部屋で目を閉じて、光療法を続ける。

「明日もきっと大丈夫。」

そう心の中で呟いて、サクラは自分自身に言い聞かせた。生活は厳しく、毎日が戦いのようだ。けれど、少しずつ変わる自分を感じることができる。今日一日を乗り越えられたこと、子供たちと一緒に過ごした時間、その全てがサクラにとっての希望になると信じていた。

「今日も、お日様が教えてくれる。明日はきっと、もっと良くなる。」

サクラは心の中でそう誓いながら、深く息を吸った。明日が少しでも希望に満ちた一日になることを願って。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

お金持ちごっこ

春秋花壇
現代文学
お金持ちごっこは、お金持ちの思考や行動パターンを真似することで、自分も将来お金持ちになれるように意識を高める遊びです。 お金持ちごっこ お金持ちごっこ、心の中で、 夢見る未来、自由を手に、 思考を変え、行動を模倣、 小さなステップ、偉大な冒険。 朝の光が差し込む部屋、 スーツを選び、鏡を見つめ、 成功の姿、イメージして、 一日を始める、自分を信じて。 買い物リスト、無駄を省き、 必要なものだけ、選び抜いて、 お金の流れを意識しながら、 未来の投資を、今日から始める。 カフェでは水筒を持参、 友と分かち合う、安らぎの時間、 笑顔が生む、心の豊かさ、 お金じゃない、価値の見つけ方。 無駄遣いを減らし、目標に向かう、 毎日の選択、未来を描く、 「お金持ち」の真似、心の中で、 意識高く、可能性を広げる。 仲間と共に、学び合う時間、 成功のストーリー、語り合って、 お金持ちごっこ、ただの遊びじゃない、 心の習慣、豊かさの種まき。 そうしていくうちに、気づくのさ、 お金持ちとは、心の豊かさ、 「ごっこ」から始まる、本当の旅、 未来の扉を、共に開こう。

生きる

春秋花壇
現代文学
生きる

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...