陽だまりの家

「支援と孤独の狭間」3

「支援と孤独の狭間」3

サクラは、机に向かって家計簿を見つめていた。生活扶助158,660円、障害者加算17,870円、児童養育加算30,570円、母子加算26,500円、住宅扶助69,800円。合計で303,400円。数字を何度も繰り返し目で追いながら、サクラは改めてその金額に目を見張った。

その額は、サクラが一人で働いて得られる手取りよりも多かった。身体に疲れが残り、毎日精一杯働いても、結局残るお金は少ない。こんなにも支援があるのに、それでも生活は楽にならず、むしろ不安でいっぱいになることのほうが多い。しかも、医療費がかからないことだけが、唯一の救いだった。

だが、実際にはこの支援があるからこそ、サクラにはある種の「足かせ」のようなものを感じていた。貯金をすることは決して悪いことではないと頭では理解している。でも、この支援があることで、貯金が増えていくと、生活保護の支給額が減少していくことが恐ろしかった。

「貯金しちゃダメなんだろうか？」
サクラは机を見つめながら、何度もその疑問が頭の中を駆け巡った。家計簿に書かれた数字が、まるで罠のように思えてきた。貯金をしても、いつかそれが無駄になってしまうのではないかという恐怖に囚われる。自分の生活が良くなり、未来に希望が持てるかもしれないという小さな期待さえ、支援の枠に縛られているという感覚がサクラを苦しめた。

本当なら、自分の健康を取り戻し、働けることが一番の幸せだと思う。子供たちと一緒に笑って過ごし、夜、寝かしつけた後に自分だけの時間を持ちたい。何度もその思いが胸をよぎるが、現実はそう甘くはなかった。サクラは毎日、体力と精神力を振り絞りながら、少しでも子供たちによりよい生活を提供しようと頑張っている。だがその努力が、時として無駄なものに感じる瞬間があった。

「こんなに頑張っているのに、どうして私だけがこんなに重い荷物を背負わなきゃいけないんだろう？」
その思いが、時折涙となって溢れ出す。どれだけ頑張っても、生活は前に進んでいるようで、実際はその場で足踏みをしているだけのように感じた。

ハルとユウが帰宅する時間が近づくと、サクラは急いでその思考から抜け出し、キッチンに向かった。どんなに疲れていても、子供たちに笑顔を見せることだけは忘れたくなかったから。ハルが玄関を開ける音が聞こえた瞬間、サクラは自然と笑顔を作った。

「おかえり、ハル。ユウも、お疲れさま。」
サクラはそう言いながら、二人を迎え入れた。ハルは真っ先にサクラに駆け寄り、頬にキスをしてきた。その無邪気な仕草に、サクラは胸がいっぱいになる。ユウもにこっと笑いながら、「ママ、今日もご飯おいしそうだね！」と声をかけてくれる。

「ありがとう、ユウ。今日はちょっと特別なご飯だよ。」
サクラは無理にでも明るく答えた。食卓を囲んでいる時、子供たちの笑顔だけが心を温めてくれる。しかし、彼女の頭の中では、まだ残された不安が消えることはなかった。

夜、子供たちが寝静まった後、サクラはまた一人で机に向かい、生活費や支援金の計算を始めた。その数字が冷たく、遠い場所から自分を見下ろしているように感じられる。

「私が貯金をしているから、これ以上支援が減らされたらどうしよう？」
「私が働き始めても、どれだけ稼いでも、結局は生活保護の枠を超えられない。」
その二つの思いが交錯して、サクラは何度も息をついた。生活が楽になったら、自分をもっと強く持てるはずだと思っていたが、それは夢のような話に過ぎないことに気づいていた。

でも、サクラはやり直さなければならない。自分を支えるために、そして何より、子供たちにとっての希望を作るために。

サクラは、ふと窓の外に目を向けた。夜空には星が輝いている。彼女の心の中に、ほんの少しだけ希望の光が灯った気がした。明日もまた、子供たちと笑顔で過ごすために。