陽だまりの家

春秋花壇

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サクラの選択

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サクラの選択

サクラは、キッチンで静かにローズマリーの葉を摘んでいた。手のひらに広がる香りが、冷えた空気の中でほんの少しの温もりをもたらすようだった。ミクは隣で、お気に入りのぬいぐるみを抱えて遊んでいる。ヒナはテーブルの上でクレヨンを握りしめ、カラフルな絵を描いている。ハルは窓際で、サクラが準備しているクリスマスツリーの飾り付けを手伝いながら、嬉しそうに話しかけてきた。

「ママ、これ、ここに飾っていい?」

「うん、それでいいよ、ハル。」

サクラは微笑みながら答えたが、心の中にはどこかひっかかるものがあった。クリスマスの準備は楽しいし、子どもたちも楽しそうにしている。けれど、心の奥底で、何かが引っかかる。サクラは、エホバの証人として育った。誕生日もクリスマスもお正月も、何も特別に祝うことはなかった。家族が集まることもなく、ただ普通の一日が続く。その中で、心のどこかで物足りなさを感じていた。

SNSを見れば、フォロワーが「メリクリ!」と書き込んで、いいねがたくさんついている。サクラの目に飛び込んでくるその文字が、何とも言えない気持ちを引き起こす。自分もその言葉を返せたらいいのにと思いながらも、どうしてもそれができない自分に、ため息が出てしまう。

「不忠実なのかな?」サクラは、自分に問いかける。SNSをやめるようにと言われた数ヶ月前のことを思い出す。その言葉に従って、サクラはしばらくSNSを離れたが、またふと戻ってきてしまった。フォロワーたちが送る「メリクリ」のメッセージに対して、何も返せない自分が、まるで反抗的で、従順でないように思えて仕方ない。

「でも、どうしても、自分の気持ちに正直でいたい」とサクラは心の中でつぶやいた。

サクラは、自分が置かれている状況に対して、時々強い疑問を感じることがあった。夫の死後、心身ともに傷つき、うつ病の療養生活を送りながら、日々の生活をなんとか送っている。3人の子どもたちを育てることは大変だが、それでも楽しさを見つけることができる瞬間もある。子どもたちが絵を描いたり、ツリーの飾り付けを手伝ってくれる瞬間は、サクラにとって何よりの幸せだった。

けれど、クリスマスを祝うということが、どうしてもサクラにとっては複雑な気持ちを抱かせてしまう。家族で過ごす「特別な日」がなぜ必要なのか、その理由を考えずにはいられなかった。過去に学んだこと、両親から教えられたことが、心の中で反響している。「神様が誕生日を祝うことを望んでいない」と教えられてきたことが、今もサクラを縛っている。

「でも、ハルやヒナ、ミクが楽しんでる姿を見ると、やっぱりやりたい気持ちが強くなる」と、サクラはつぶやいた。

サクラは、ローズマリーの葉を皿に並べながら、ふと考えた。この料理や飾り付けが、子どもたちにとってどんな意味を持つのだろう。サクラが育った環境では、家族の絆が重要視され、祝祭の意味を大切にしていた。サクラもその影響を受けて育ったが、今の自分には、それを実行することができるのだろうか。神様に従い、家族を大切にすることが、果たして自分にとって本当に正しい選択なのだろうか。

サクラは、スマホを手に取って、再びSNSを開いた。今はもう、クリスマスを祝うことを決めた自分の気持ちに素直に従いたいと思っていた。子どもたちにとっては、この日が特別な意味を持つかもしれないし、サクラ自身も、何かを変えるきっかけにできるかもしれないと思った。

「でも、どうしても不安になる自分がいるんだよね」とサクラは心の中で自問した。自分に正直でいることが、時にはこんなに難しいことなのだと改めて感じる。神様に対して反抗しているのではないか、従順でないのではないかという恐れも、少しずつその心を曇らせていた。

「でも、少なくとも今日は、子どもたちと楽しもう」と、サクラは決心した。

夕方、サクラは子どもたちと一緒にクリスマスツリーを灯した。ローズマリーの香りが部屋を包み、ヒナは嬉しそうに歌いだし、ハルはツリーの下にプレゼントを置いていた。ミクは小さな手で飾りを一つずつ丁寧に並べている。

その瞬間、サクラは感じた。これでいいのだと。自分が選んだ道を歩んでいると、心から思えるようになった。

SNSでの「メリクリ」という言葉が、サクラにとってどんな意味を持つのかは分からない。けれど、今日は自分と子どもたちのために心を込めて準備した、この小さなイベントが、サクラにとっては何よりの「祝福」だと感じられるようになった。

その夜、サクラは子どもたちを寝かしつけながら、深く息を吸った。どんな状況でも、彼女にはできることがあり、それを楽しむ権利があると信じることが、今の自分に必要だと思った。







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