陽だまりの家

春秋花壇

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炊飯器の魔法のケーキ

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「炊飯器の魔法のケーキ」

冬のある午後、サクラは子供たちとリビングで過ごしていた。外は寒くて遊びに行くには少し厳しい日だった。6歳のハル、4歳のヒナ、2歳のミクは、毛布にくるまりながらお絵描きをしている。

「ねえ、今日は炊飯器でケーキを作ろうと思うんだけど、どう?」
サクラが言うと、ハルが大きな目をさらに大きくして振り向いた。

「うそだー!」
ハルの顔には、半信半疑というよりも完全に信じていない様子がありありと見える。

「炊飯器でケーキなんて作れるの?炊飯器はご飯だけじゃないの?」

その反応が面白くて、サクラはつい笑ってしまった。

「じゃあ、ハルはケーキがどうやってできると思ってるの?」
「うーんとね、この前はホットケーキのもとを型に入れて焼いたよね?」

「この前」なんて、いつの話だろう?サクラは記憶を巡らせながらも、ハルの純粋な好奇心に微笑んだ。

早速、キッチンに移動してケーキ作りを開始することにした。サクラは炊飯器の内釜を丁寧に洗い、小麦粉や砂糖、卵を取り出す。ハルとヒナは台所のスツールに座り、興味津々の顔で見守っている。

「ママ、何するの?」
ヒナが聞いてくる。

「まずは卵と砂糖を混ぜて泡立てるのよ。これがふわふわになると、ケーキが膨らむの。」

ボウルに卵を割り入れると、ハルが小さな手を伸ばしてきた。
「ハルも混ぜたい!」

「じゃあ、泡立て器を持ってごらん。」
サクラが言うと、ハルは一生懸命にボウルを混ぜ始めた。ヒナも隣で「私もやりたい!」とせがむので、交代しながら泡立てていく。

材料を混ぜ終わり、生地を炊飯器の内釜に流し込むと、ハルが再び疑問の声を上げた。

「でもさ、本当にこれでケーキになるの?」
「なるのよ。炊飯器は温度を保つから、オーブンがなくてもケーキが焼けるの。」
サクラが説明すると、ハルは「ほんとかなぁ」と小さくつぶやき、釜が炊飯器にセットされるのをじっと見つめた。

炊飯ボタンを押し、しばらく待つ間、ミクがサクラの膝に抱きついてきた。
「ケーキまだー?」
「もうちょっと待ってね。」
時間が経つのを待つ子供たちの間に、少しずつワクワクが広がっていく。

30分ほどして、炊飯器の蓋を開けると、ふんわりと膨らんだスポンジケーキが現れた。甘い香りが広がると同時に、ハルが大きな声で叫ぶ。

「うわー、本当にケーキになってる!」
ヒナも「すごい!お店屋さんみたい!」と手を叩いて喜んでいる。

次はデコレーションの時間だ。サクラはスポンジを冷ましている間に、子供たちと一緒に生クリームを泡立てた。ハンドミキサーを使いながら、「泡立てすぎるとバターになっちゃうのよ」と教えると、ハルが目を丸くして「ケーキにバターなんて変だよ!」と笑った。

クリームがふんわり仕上がると、今度は苺を半分に切り、スポンジの上に並べていく。ハルが「ここに置いていい?」と指を差し、ヒナも「私もやりたい!」と夢中になった。ミクは小さな手で苺をつまみながら「食べていい?」と聞いてくる。

完成したケーキに、最後の仕上げとして粉砂糖を振りかけた。苺の上に雪のように降り積もった白い砂糖が、子供たちの目をさらに輝かせる。

「クリスマスみたいだね!」
ヒナが笑顔で言った。

「そうね。ちょっと早いけど、今日は特別な日ね。」
サクラはそう言いながら、小さなナイフでケーキを切り分けた。

「はい、召し上がれ。」

子供たちはそれぞれの皿を手に取り、一口ずつケーキを頬張った。

「おいしいー!」
「ふわふわだね!」
「ケーキってこんなに簡単に作れるんだ!」

その無邪気な感想に、サクラは胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。

「みんなで作ったから、もっとおいしいね。」
そう言いながら、サクラも一口食べた。甘さ控えめのスポンジと苺の酸味がちょうど良く、心まで優しく満たされていくようだった。

その夜、子供たちは満足そうな顔で布団に潜り込んだ。サクラは台所を片付けながら、小さく微笑んだ。

「炊飯器でケーキを作るなんて思いつかなかったけど、今日の思い出もまた一つの幸せね。」

大げさなことは何もない。それでも、こうした日常が少しずつ積み重なって、子供たちの心に温かい記憶として残っていく。それがサクラにとって何よりも嬉しいことだった。

解説
この物語は、母子家庭で生活する主人公サクラが、子供たちと一緒に炊飯器を使ってケーキを作ることで、日常の中に小さな幸せを見つける様子を描いています。特別な道具や材料がなくても、子供たちの笑顔や楽しそうな声が、母親にとって何よりの励みになります。家族の絆と、何気ない日常の温かさを感じられる物語です。
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