陽だまりの家

メンタル豆腐の行方

『メンタル豆腐の行方』

サクラは布団にくるまりながら、心の中でつぶやいた。

「どうしたらいいのかな……」

心がぐしゃぐしゃに潰れてしまったような感覚に襲われるたび、自分の弱さを責めてしまう。それでも、子どもたちの寝顔を見ていると、胸がきゅっと締め付けられる。

「この子たちのために強くならなきゃ。」

そんなふうに思うのだが、現実は簡単ではない。

朝が来た。冬の冷たい光がカーテン越しに部屋を照らす。起きるのが億劫だったが、子どもたちが騒ぎ始める音に促されるように体を起こす。

「ママー！お腹すいたー！」
「ねぇ、ミクが靴下なくしちゃったー！」

一気に日常が押し寄せてくる。豆腐のように崩れやすいメンタルでも、母親として動かなければならないのが現実だ。サクラはエプロンを身につけて、いつものように朝食の準備を始めた。

その日の午後、子どもたちと一緒に公園に出かけた。冷たい風にさらされながらも、子どもたちは元気に遊具を駆け回っている。サクラはベンチに腰を下ろし、ぼんやりと彼らの姿を眺めていた。

すると、見覚えのある顔が視界に入った。団地に住む佐藤典子さんだった。

「こんにちは、サクラさん。寒い中、子どもたち元気ねぇ。」

「あ、佐藤さん。こんにちは。」
気づけば、いつものように話が始まっていた。佐藤さんは75歳の独居老人で、最近はサクラたちのガーデニング活動に参加してくれている。

「サクラさん、大丈夫？なんだか元気がないように見えるけど。」

その一言で、サクラの胸の奥がぐっと締め付けられた。自分の弱さを隠しているつもりでも、意外と人には見抜かれてしまうものなのかもしれない。

「……実は、最近ちょっと疲れちゃって。」

サクラは少しずつ、自分の気持ちを話し始めた。佐藤さんは黙って耳を傾け、時折「そうね」と相槌を打つだけだった。その優しい態度に、サクラの中で凝り固まっていた感情が少しずつほぐれていく。

「サクラさん、人ってね、完璧じゃなくていいのよ。」

佐藤さんの言葉が、冷たい空気の中にしっかりと響いた。

「私なんてね、長い間、一人で生きてきたけど、やっぱり弱い時はいっぱいあったわ。でも、そんな時は誰かに頼るのも大事よ。サクラさんだって、子どもたちに支えられてるじゃない。」

その言葉を聞いて、サクラの胸がじんわりと温かくなった。自分は弱い。でも、弱いままでも、子どもたちと一緒に前に進むことができるかもしれない。

夜、子どもたちが寝静まったあと、サクラはノートを開いた。そこには佐藤さんから聞いた言葉を書き留めた。

「完璧じゃなくていい。頼れる時は頼る。」

その一文を眺めながら、サクラは深く息を吐いた。そして、こう自分に言い聞かせた。

「私は豆腐メンタル。でも、豆腐だって美味しいんだから、それでいいじゃない。」

その夜、サクラは少しだけ心が軽くなったような気がした。明日もまた、冷たい風が吹くだろう。それでも、子どもたちの手を取りながら、一歩一歩前に進んでいこうと思った。

それが、今の自分にできる精一杯の「生き方」だから。