陽だまりの家

冬の公園

『冬の公園』

冬の冷たい風が吹き抜ける公園で、サクラは子どもたちと遊具の近くにいた。空は青く澄み渡り、枯れた木々の隙間から暖かな陽射しが差し込む。しかし、サクラの心は晴れやかとは程遠かった。今日もまた、なんとか子どもたちの笑顔に救われながら日々をやり過ごしていた。

「おまいら、ジジババ相手に宗教勧誘してるんだって？」
突然、4年生くらいの男の子が近づいてきて、そんな言葉を投げかけてきた。

ハルは男の子を見上げて目を白黒させる。
「宗教勧誘ってなーに？」

その言葉の意味を理解できない彼女は、ただ戸惑いを隠せない。隣にいたヒナも、「あんたもそう思ってんの？」と、不機嫌そうに口を尖らせた。2歳のミクは何も言わず、じっと男の子を見つめている。

サクラは、突然の出来事に体がこわばった。自分たちの行動をそんなふうに捉える人がいるなんて……。

実際、サクラはエホバの証人としてバプテスマも受けていなければ、正式な伝道活動にも参加していない。ただ、近隣の高齢者たちを気遣いながら小さな助け合いをしているだけ。それが宗教勧誘と見なされるのだろうか。

心の奥底に潜んでいた不安や自信のなさが一気に押し寄せてきた。サクラはしゃがみこみ、その場で涙を流し始めてしまった。

「ママ？」
ハルがサクラの顔を覗き込む。

「ママをいじめたらだめなのー！」
次の瞬間、ハルは大きな声で叫んだ。その声は冬の公園に響き渡り、木々の間で反響する。

驚いたのは男の子だった。彼は少し顔を赤らめると、「べ、別に……」と言いながら、慌ててその場を走り去ってしまった。

「ママ、だいじょうぶ？」
ハルがそっとサクラの手を握った。その手の温かさが、サクラの心にじんわりと染み込んでくる。

「ごめんね、ママ、弱虫で……」
サクラは涙を拭いながら、か細い声で言った。

「ママは弱虫じゃないよ。ハルもヒナもミクも、みんなママのこと好きだからね。」
ハルの言葉に、ヒナもコクコクと頷く。ミクもその小さな手でサクラの肩をポンポンと叩いた。

「みんな……ありがとう。」
サクラは再び涙が溢れそうになるのをこらえた。

家に帰ると、ハルが小さなノートを持ってきた。彼女はそのノートを開き、ママに見せる。そこには、ハルが一生懸命書いた文字や絵が並んでいた。

「これ、ママのために書いたの。」
ハルの字で「ママ だいすき」と書かれているページには、サクラと子どもたちが一緒に笑っている絵が描かれていた。

「ママはすごいんだよ。ハルたちのこと、ちゃんと育ててくれてるんだから。」
ハルの言葉に、ヒナが横から口を挟む。

「そうだよ！ママ、いつもおいしいごはん作ってくれるし、遊んでくれるし！」

「ママ！」
ミクが一言だけそう叫ぶと、サクラの胸に飛び込んできた。

サクラは子どもたちを抱きしめながら、心の奥から湧き上がる温かい感情を感じた。

その夜、サクラは子どもたちが眠りについたあと、一人でノートを開いていた。ハルが描いてくれた絵を見ながら、思った。

自分がしていることは、大きなことではない。でも、それが子どもたちや周囲の人たちにとって、少しでも意味があるのなら、それで十分なのかもしれない。

「少しずつでいい。強くなっていこう。」
サクラはそう自分に言い聞かせ、そっと目を閉じた。

明日もまた、冷たい冬の空気の中で、子どもたちと笑い合える日が来ることを信じて。