陽だまりの家

タラの香る団地のホームパーティー

『タラの香る団地のホームパーティー』

サクラはキッチンで包丁を握りしめ、タラの切り身を丁寧に下ごしらえしていた。旬の魚であるタラが市場で驚くほど安く手に入ったのだ。団地の高齢者たちに感謝を込めた料理を振る舞おうと、今日はホームパーティーを開くことにした。

「ママ、タラっておいしいの？」
6歳の長女、ハルが興味津々な顔で聞いてくる。

「とってもおいしいわよ。タラはね、いろんな料理に合う万能なお魚なの。」
サクラは笑顔で答えながら、切り身を鍋に並べていく。ヒナとミクも興味を示し、キッチンをうろうろしていた。

「ねぇ、手伝ってもいい？」
ヒナが少し誇らしげに言う。

「もちろんよ。じゃあ、この大根を並べてくれる？」
サクラが頼むと、ヒナは一生懸命に小さな手で大根を整えていった。

準備が整い、招待した団地の住人たちが一人ずつやってきた。山田さん、田中さん、そして鈴木さん。みな、少し背中を丸めた年配者たちだが、その顔には優しさがにじみ出ていた。

「まあ、今日はまたごちそうになるのね。」
山田さんが微笑みながら言った。

「いえいえ、こちらこそ。みなさんが来てくださるだけでうれしいんです。」
サクラはお茶を入れながら答えた。

「しかしまあ、タラとはいいチョイスだ。冬の味覚はこれに限るね。」
田中さんは目を細めながら鍋をのぞき込んだ。

「サクラさん、こんなに立派なホームパーティーを開くなんて、感心だわ。うちの孫たちも見習ってほしいくらい。」
鈴木さんが笑いながらそう言った。

サクラは少し照れたように微笑んだ。「エホバの証人はクリスマスをお祝いしないけれど、こうして季節の恵みをみんなで楽しむのが大好きなんです。決して何かを得そこなっているわけじゃないんです。それをみなさんに伝えたくて。」

鍋が煮立ち、湯気とともにタラの香りが部屋中に広がった。大根や白菜、春菊など、野菜もたっぷり入った鍋がテーブルを彩る。

「さあ、どうぞ召し上がってください。」
サクラが声をかけると、子供たちもおじいちゃまやおばあちゃまたちと一緒にテーブルに着いた。

「おいしい！」
ハルが一口食べて満面の笑みを浮かべた。

「本当においしいわ。このタラ、身がしっかりしててふわっとしてる。」
鈴木さんが感嘆の声を上げる。

「これぞ冬のごちそうだね。」
山田さんも箸を進めながら満足そうに頷いた。

子供たちはみな、団地の住人たちと打ち解けて楽しそうに話している。ヒナが山田さんに「タラってなんで白いの？」と質問すると、山田さんは笑いながら「それはね、寒いところで育つ魚だからだよ」と答えてくれた。

パーティーが終盤に差し掛かる頃、田中さんがサクラにぽつりとつぶやいた。
「サクラさん、こうやってみんなで集まる機会を作ってくれてありがとう。この団地も少し寂れてきて、人との交流が減ってきたから、こういう場が本当にありがたい。」

サクラはその言葉に胸が熱くなった。「私も、みなさんのおかげで毎日助けられているんです。だからこうして恩返しできればと思って…。」

「恩返しだなんて。君がしているのは、それ以上のことだよ。」
田中さんの言葉に、サクラは目頭が熱くなった。

パーティーが終わり、団地の住人たちが帰った後、サクラは子供たちと一緒に片付けをしていた。

「ママ、みんなすごく楽しそうだったね。」
ハルが言う。

「そうね。それに、みんなが喜んでくれると、私たちも幸せになるね。」
サクラは笑顔で答えた。

ヒナとミクも頷きながら「またパーティーしたい！」と声を上げた。

「次は春に、桜餅パーティーでもしようか。」
サクラはそう提案しながら、心に静かな満足感を抱いた。

冬の夜、サクラの心はタラのようにふっくらと温かく、次の季節への希望で満たされていた。団地に住む人々との絆が、彼女と子供たちの未来をやさしく照らしてくれるようだった。