陽だまりの家

団地に咲くビオラ

『団地に咲くビオラ』

サクラは窓辺に座り、外の景色を眺めていた。冬の冷たい風が吹く中、団地の庭はどこか寂しげに見える。それでも、彼女の心には小さな温もりがあった。今日、ビオラの花を植える計画を立てていたからだ。

「ママ、ビオラってどんなお花なの？」ハルがサクラのそばに駆け寄ってきた。

「ビオラはね、小さくて色とりどりのかわいいお花よ。寒い冬でも元気に咲いてくれるんだ。」サクラは微笑んで説明した。

サクラはふと、自分の生活を振り返った。夫を失い、深い悲しみの中でうつ病を患った。生活保護と精神障碍者年金で生計を立てながら、3人の幼い娘を育てる日々。周りから「大変だね」と言われることもあるけれど、サクラは今の生活に感謝していた。

月々の収入は、普通に働けていたとしても得られないような金額だ。家賃補助や医療費の免除もあり、子供たちが病気をしても安心して病院に連れて行ける。「この支援があるからこそ、私は子供たちと穏やかに暮らせている」と思う。

そんなサクラの心には、社会への恩返しをしたいという想いがあった。先日、非課税世帯への給付金が支給され、子供たち一人に2万円、合計9万円が手元に届いた。余裕ができた分で、何か温かいことをしたい。そう考えて、彼女はビオラの花を買いに行った。

「団地のみんなに喜んでもらえるといいね。」サクラはそうつぶやきながら、ハル、ヒナ、ミクと一緒に土いじりを始めた。

団地の庭には、サクラと娘たちが植えたビオラの苗がずらりと並んだ。黄色や紫、白の花びらが、小さな団地の風景を鮮やかに彩る。

「ママ、これでみんな笑顔になるかな？」ヒナが土を触りながら聞く。

「きっとなるよ。花は見る人の心を優しくしてくれるからね。」サクラは微笑みながら答えた。

団地の住人たちはサクラが庭に花を植えている様子を見て、不思議そうに足を止めた。「何かあったの？」と声をかけてくれる人もいれば、「きれいね」と笑顔を向けてくれる人もいる。

ある日、隣の棟に住む年配の女性がサクラに話しかけてきた。「あの花、あなたが植えたの？毎朝見るたびに元気をもらえるわ。」

「そう言っていただけると嬉しいです。」サクラは少し照れながら答えた。「子供たちと一緒に植えたんです。寒い冬でも元気を届けたくて。」

女性はその言葉に感心した様子で頷いた。「本当に素敵なことをしてくれてありがとうね。」

サクラの心の中には、小さな満足感が芽生えていた。たとえ自分たちの生活が支援に支えられているとしても、自分たちにも何かを与えられる力がある。それを知ったことで、彼女の心は少しずつ明るくなっていった。

「ママ、ビオラってすごいね。こんなにたくさんの人を幸せにしてる。」ハルがそう言うと、ヒナとミクも嬉しそうに頷いた。

「そうね、花は誰かの心に優しさを届けることができる。それは、私たちも同じだと思う。」サクラは子供たちを優しく抱きしめながら答えた。

冬の間、ビオラはしっかりと咲き続け、団地の住人たちの心を温めた。サクラは、花が与えてくれる温もりが自分にも届いていることを感じていた。

「次は春に向けて新しいお花を植えようか。」サクラは子供たちに提案した。

「いいね！次は何の花がいいかな？」ハルが目を輝かせる。

「またみんなで考えようね。」サクラは微笑みながら答えた。

ビオラの花が咲き誇る庭で、サクラと娘たちの笑い声が響いた。その声は、冬の空気を温かく包み込み、団地の暮らしを少しだけ明るく照らしていた。