陽だまりの家

ほんとのクリスマス

ほんとのクリスマス

サクラは静かな朝の空気の中、キッチンでコーヒーを淹れていた。朝の光が差し込み、家の中に温かな色を落とす。六歳のハルがテーブルで静かに絵本をめくり、四歳のヒナはおもちゃで遊んでいる。二歳のミクは、足元をうろうろしながら、ぬいぐるみを抱きしめている。どこにでもある、普通の母子家庭の朝だが、サクラの心には深い悩みがあった。

「サクラ、おはよう！」ハルが元気よく声をかけてきた。いつもは子供たちに元気をもらうことが多いサクラだが、今日は特に気分が沈んでいた。

「おはよう、ハル。」サクラは軽く微笑んで、コーヒーを一口飲んだ。

「ママ、今日はクリスマスだよね？」ヒナが目を輝かせながら尋ねた。

サクラは心の中でため息をついた。そう、今日はクリスマスだ。しかし、彼女にとってクリスマスは特別な意味を持っていない。エホバの証人として育てられた彼女にとって、クリスマスは祝うべき日ではなかった。自分がクリスチャンとして信仰を持ち始めてからも、家族の教えを守るべきだというプレッシャーがあった。

「うーん、でもママはね、クリスマスをお祝いしないって決めたんだよ。」サクラは優しく答えた。

ハルは少し驚いた様子で、次にヒナも不安げに顔を見合わせた。小さな子供たちにとって、クリスマスは楽しみなイベントだったはずだ。プレゼントや特別なご馳走を期待しているのだろう。それでもサクラは、自分が選んだ信仰を大切にしたいと感じていた。

「でも、なんで？」ヒナが首をかしげる。

サクラは少し言葉を詰まらせた。どうしてこのことを説明すればいいのか、言葉を選ぶのが難しかった。

「クリスマスはね、イエス・キリストが生まれた日なんだ。でも、エホバの証人では、その日を祝うことはしないって教えられてきたの。でも、ママは、クリスマスがどんな意味を持っているのかを、みんなに教えてあげたいと思っているんだ。」

子供たちは静かにサクラを見つめていた。サクラは心の中で祈るように言葉を続けた。

「イエスが生まれたのは、私たちのためなんだよ。イエスが来たのは、私たちを救うためだったんだ。それはね、私たちがどんなに罪を犯しても、悔い改めれば、神の許しを受けられるっていう意味なんだ。」

子供たちは少しずつその言葉を噛みしめるように聞いていた。サクラは少し安心して、話を続けた。

「イエスが生まれたことは、私たちにとってとても大切なことだよ。だから、今日を祝わなくても、イエスが教えてくれた愛や許しの気持ちを、私たちの心で感じることができるんだよ。」

「それって、プレゼントじゃなくて、愛が一番大事ってこと？」ハルが、ようやく理解したように言った。

「そうだね、ハル。プレゼントをもらうことは嬉しいことだけど、もっと大切なのは、お互いに愛をもって接することだよ。それがイエスの教えなんだ。」

ヒナが嬉しそうに手を挙げた。「じゃあ、クリスマスをお祝いしなくても、ママと一緒に愛をおくることができるんだね！」

サクラは思わず微笑んだ。「その通りだよ、ヒナ。クリスマスの本当の意味は、愛をおくることなんだ。」

ミクは、サクラの足元に近寄ってきて、手を引っ張りながら言った。「ママ、おうち、あたらしいプレゼント？」

「うーん、今日はプレゼントはないけれど、みんなと過ごす時間が一番のプレゼントだよ。」サクラは優しく言って、ミクを抱き上げた。

その瞬間、サクラの心にひときわ強い思いが湧いてきた。クリスマスを祝うことができなくても、彼女は自分の選んだ信仰を大切にし、子供たちに愛と許しの本当の意味を伝えることができる。そんな思いが、サクラの中で深く根を張っていた。

「ねえ、みんな。」サクラは少し声を張って言った。「今日は、イエスが生まれた日じゃなくても、私たちが愛し合って、お互いに感謝する日だよ。だから、私たちにとっては、今日が本当のクリスマスだよ。」

子供たちは、サクラの言葉に頷きながら、幸せそうに顔を見合わせた。サクラもまた、彼らの笑顔を見て、心の中で温かな光が差し込んでいくのを感じた。彼女が選んだ信仰と、愛を持ち寄った家族の絆は、どんなクリスマスの飾り付けよりも、何よりも輝いていた。

そして、サクラは子供たちを抱きしめながら、静かに祈った。「神様、私たちに与えてくださった愛に感謝します。私たちがどんな時も、互いに愛し合い、支え合えるように。」