陽だまりの家

春秋花壇

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蕪の葉がもたらすぬくもり

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蕪の葉がもたらすぬくもり

スーパーの片隅で見つけた蕪の葉。それは、見落とされがちな存在だった。傷んで値引きされていたその束を、サクラはそっと手に取った。「これで、何か作れるかな……」26歳の彼女にとって、毎日の食事は家族の絆を保つ大切な役割だった。

自宅に戻ると、長女のハルが玄関まで駆け寄ってきた。「ママ!何買ってきたの?」4歳の次女ヒナと2歳の三女ミクも、その後ろから顔を覗かせる。

「今日はね、蕪の葉でお料理しようと思うの」

テーブルに広げた蕪の葉を見て、3人の娘たちは興味津々。青々とした葉っぱに触れたり匂いを嗅いだりしては、「これ食べられるの?」と次々に質問を投げかけた。

サクラは包丁を手に取り、蕪の葉を細かく刻み始めた。キッチンに立つのは久しぶりのことだ。夫が亡くなってからというもの、何をするにも気力が湧かず、料理も簡単なものばかりだった。それでも最近は、子どもたちの笑顔を見ていると、少しずつ前を向ける気がしてきた。

「これで炒め物を作ってみようか。お醤油とお砂糖で味付けすると美味しいんだよ」

フライパンにごま油を垂らし、じゅわっと音を立てながら蕪の葉を炒める。その香りに子どもたちは「いい匂い!」と歓声をあげた。

料理が完成すると、サクラは3人の小さな器にそれぞれ盛り付けた。ほかに用意したのは、炊きたての白ご飯と味噌汁だけのシンプルな食卓。しかし、子どもたちは「いただきます!」と元気に手を合わせ、目を輝かせて蕪の葉の炒め物を口に運んだ。

「これ、美味しいね!」ハルが嬉しそうに言うと、ヒナも「もっと食べたい!」と手を伸ばした。ミクはまだ上手にお箸が使えないため、小さな手で掴んでは口に運び、嬉しそうに笑っている。

その光景を見て、サクラの胸がじんと熱くなった。「蕪の葉一つで、こんなに喜んでくれるんだね……」彼女の心の奥に、かすかではあるが確かな希望の光が差し込む。

食後、子どもたちが眠りについた後、サクラは机に向かい手帳を開いた。夫が亡くなった直後から書き始めた日記は、彼女の心の支えとなっている。今日の夕食の出来事をつづりながら、ふと涙がこぼれた。

「ありがとうね、みんな。ママはもう少し頑張れる気がするよ」

蕪の葉がもたらしたのは、料理の美味しさだけではなかった。子どもたちと笑い合う時間、そして、自分もまだ母親として成長していけるという実感。

次の日、サクラは保育園の申請書類を手にしていた。「少しずつ、できることを増やしていこう」彼女の歩みは遅いかもしれない。でもその一歩一歩が、確かに未来へ繋がっていると感じていた。

蕪の葉の香りが残るキッチンに、小さな春の気配が漂っていた。







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