陽だまりの家

ぬか漬けの挑戦

ぬか漬けの挑戦

サクラは台所の隅に並べられたぬか漬けのセットをじっと見つめていた。無骨なぬか床の入った大きな容器と、そこに漬け込むための新鮮な野菜たち。これから始めるのは、単なる料理の一環ではなく、どこか心の中で決めた「挑戦」だった。

「ぬか漬けかぁ…」

サクラは思わずため息をついた。何年も前、母親が台所でよくぬか漬けを作っていた光景が浮かぶ。その香り、そして野菜を手で掴んでぬか床に押し込む手つき。それは、忙しい日常の中で一番ほっとする時間だった。自分も、そんな家庭の温かさを子供たちに感じさせたいと、ふと思ったのだ。

とはいえ、ぬか漬けなんて久しぶりだった。最初は少し不安があった。いろんな栄養が含まれていて体に良いという話を聞いても、ぬか漬けを始めるのは簡単なことではない。何日もかけて育てていくものだし、手間もかかる。それに、作るときに大切なのは「愛情」だと言われている。果たして、自分がそれをどこまで注げるのだろうかと、少し心配でもあった。

初めてのぬか床
サクラは手を洗い、ぬか床作りに取り掛かることにした。ぬかを容器に入れ、まずは手に取って、しっかりと空気を入れるようにかき混ぜる。いわゆる「手で揉む」という作業だが、その感触が意外にも心地よかった。ぬかの香ばしい匂いが広がり、何だか懐かしいような気がした。

「これを、毎日かき混ぜるのか…」

不安そうに言いながらも、サクラは野菜たちを次々と準備していった。大根、きゅうり、にんじん、そして少し甘みのある茄子。普段は料理に使うことの少ないこれらの野菜を、ぬか床に漬け込むだけで、まるで新しい命が吹き込まれるかのように感じる。

しばらくすると、サクラは思い切って野菜をぬか床に押し込んでみた。最初はうまくいかないかもしれないけれど、少しずつ慣れていくことを願って。

「これで、あとは…」

ぬか漬けの完成までは数日かかる。その間、毎日ぬか床をかき混ぜては、野菜の変化を見守ることになる。最初は面倒に感じるかもしれないが、それを楽しんでこそ、ぬか漬けが本当に美味しくなる。サクラはそんな思いを胸に、台所を後にした。

日々の変化と、発見
数日後、サクラはぬか床をチェックしに台所に足を運んだ。ぬか床の上の野菜が、少しずつ色を変え、漬かり具合が進んでいる。大根の白さが、ほんのり黄色っぽくなり、きゅうりの表面がしっとりとしたツヤを帯びてきた。

「うん、これは…！」

サクラは思わずにんまりと笑った。実際に目にしてみると、漬け込み具合がどんどん面白くなってきた。ぬか漬けが完成したら、きっと子供たちも喜ぶだろう。サクラは今からその瞬間が待ち遠しくてたまらなかった。

その日の夕方、ぬか床の中から大根ときゅうりを取り出し、まずは小さく切って子供たちに渡してみた。ハル、ヒナ、ミクの三人は、それぞれにぬか漬けを口に運び、次第にその顔がほころんでいった。

「おいしい！ママ、これすごいよ！」

「ほんとうにおいしい！」

三人の満足そうな顔を見て、サクラは胸が温かくなった。子供たちが喜んでくれることが、こんなにも自分を励ますとは思わなかった。

ぬか漬けを通して学んだこと
その後、ぬか漬けはサクラにとって、ただの料理ではなく、日々の成長を感じさせてくれる大切な存在となった。ぬか床の中で、野菜が少しずつ変化していくのを見ることで、彼女自身も少しずつ変わっていった。最初は不安だったが、毎日の手間をかけるうちに、ぬか漬けを作ることが楽しみになっていた。

ぬか漬けに含まれている栄養素のことを知り、サクラはその重要性を改めて感じた。ビタミンB群、ビタミンE、乳酸菌、そして抗酸化作用を持つ成分など、体に優しい栄養素がたくさん含まれていることを実感し、毎日の食事の中で少しずつ健康を意識するようになった。

「これが、少しずつみんなに元気を与えてくれるんだ。」

サクラは、ぬか漬けを通じて改めて家族や健康の大切さを感じることができた。何気ない日常の中で、心の中にも少しずつ温かさが広がっていくような、そんな感覚だった。

そして、サクラは決心した。これからも、このぬか漬けを続けていこう。少しずつでも、家族全員が元気で幸せに暮らせるように。