陽だまりの家

春秋花壇

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ボール遊び

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「ボール遊び」

サクラはリビングの窓を開け、爽やかな秋の風を感じながら深呼吸した。庭にはまだ青々とした芝生が広がっており、子供たちが遊んでいる声が聞こえてくる。ハルがボールを追いかけて走り回り、ヒナがその後ろを必死に追いかけている。ミクはまだ小さくて、時々転びそうになるけれど、それでもボールに手を伸ばして笑顔を見せている。

サクラはその様子を、少し離れた場所から静かに見守っていた。今日は、久しぶりに外で遊ぶことができた日だった。秋晴れの空の下で、子供たちが無邪気にボールを追いかけている姿を見ると、サクラの胸がじんわりと温かくなる。

「お母さん!ボール取ったよ!」ハルが両手でボールを抱え込んで、得意げに走り寄ってきた。

「すごいね、ハル!上手に取ったね」とサクラは笑顔で答えた。

ハルは嬉しそうにボールを地面に置き、ヒナに向かって手を振った。「ヒナ、今度は君が取ってみて!」

ヒナは、少し戸惑いながらも、自分なりに勇気を出して走り出した。最初はボールを追いかけるのに時間がかかったけれど、だんだんとボールの動きに合わせて、足を速めていった。サクラはその様子を見守りながら、静かに応援していた。

「がんばれ、ヒナ!」サクラの声が、やさしく響いた。

そして、ヒナがボールに近づいた瞬間、足を引っ掛けて転んでしまった。あっという間に地面に手をついてしまったが、ヒナはすぐに立ち上がって、ボールに手を伸ばす。

「大丈夫?」サクラが心配して声をかけると、ヒナはにこっと笑って、「うん、大丈夫!」と答えた。

その無邪気な笑顔を見て、サクラの心はまた温かくなった。子供たちが傷ついたり、転んだりするのを見るのは心配だけれど、それでも成長していく姿を見ると、どんな痛みも乗り越えられる気がする。自分も、こんな風に何度も立ち上がってきたから。

ミクはその間にも、ボールが転がるのを見て、興味津々で近づいてきた。まだうまく歩けないミクは、転んだりしながらも、必死にボールに手を伸ばす。サクラはすぐに駆け寄り、ミクの周りを守るようにして見守った。

「ミクも取れるかな?」サクラは小さな声で呟いた。

ミクは足をバタバタさせながら、ボールを前にするたびに、嬉しそうに笑った。その笑顔が、サクラにはどこか心に染み込むようだった。まだ言葉も上手に話せないけれど、その笑顔が全てを物語っている。

「取れたよ!」ヒナがボールを抱えながら、喜んでミクに駆け寄ってきた。

「すごい!ヒナ、おめでとう!」サクラは心から褒めた。

それでも、少しだけ寂しい気持ちがこみ上げてきたのは、サクラ自身がその成長に対して何か足りないと思っていたからだった。子供たちがこんなにも一生懸命に遊んでいるのを見ると、サクラもその中で何かを見失っているような気がする。

「お母さん、こっち来て!」ハルが元気よく手を振って呼んでいる。

サクラは少し考えた後、立ち上がり、子供たちの方へ歩み寄った。久しぶりにこうして外で遊べることが、こんなにも幸せで、同時にほっとする瞬間だと感じる。

子供たちはサクラを中心に集まり、またボールを転がし始めた。サクラはその輪の中に入って、手を伸ばしてボールをキャッチしようとした。しかし、すぐにハルがボールを投げてきて、サクラはそれを追いかけながら笑った。

「お母さん、ボール取ってよ!」ハルがまた楽しそうに叫んだ。

サクラは、無理してもいいから笑顔を絶やさないようにしようと思った。子供たちの笑顔は、どんな辛い時でも、自分を励ましてくれる。サクラが目指すのは、完璧な母親ではなく、ただ一緒に楽しむことができる母親でありたかった。

「いくよー!」サクラは思い切り走り、ボールを受け取った。

その瞬間、サクラははっきりと感じた。今、ここにいることがすべてだ。子供たちと一緒に過ごす時間が、何よりも大切だと。

「お母さん、すごい!」ヒナが笑顔で褒めてくれる。

サクラはその言葉に、胸が熱くなるのを感じた。まだまだ足りないことがたくさんあるけれど、それでも、少しずつでも前に進んでいる。そして、子供たちと一緒に笑いながら遊ぶことで、心が元気になっていくのがわかる。

「みんなで一緒に、また遊ぼうね」とサクラは、心の中で誓った。







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